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「単純明快に話す実践法」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(47)
「単純明快に話す実践法」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役) 

◆即題で錬磨する
 
テーブルに置かれた数十枚のカードから一枚取り上げ、にこっとする。直ちに「皆さん、こんにちは。練馬区のKです。AIについて話します。私は、人の持つ素晴らしい能力を更に生かせる機会を創ることだと考えます。なぜかと言えば……」と話し始める。

続いて阿波踊り連長のSさんが引く。「うーん」と絶句だ。しかし、「最近の若者たちについて私は、アイデアマンだと思います。と申しますのは、踊りの練習法でも思わぬことを率直に提案してくれます。たとえば……」
終えた後のにこっとする、この笑顔に思わず学び仲間が拍手する。

スピーチ後、直ちに小生がOKポイント、そして改善点を示唆する。多少の興奮気味の時間だが素直に受け入れ、今後に生かしていく。すでに30年継続してきた話力アップサークルでの演習である。

これは1分間の即題演習である。伏せたカードを取り上げ、記されたテーマに即1分間のスピーチを行う。毎回緊張と興奮の取り組みだが、さすが「継続は智(次へ向けた智恵)から成り」その成長ぶりは見事である。

成長点は何処に見えているか。それは、何が言いたいか自身の考えをきちっと示すこの主張の明快さ、そして、なぜそう考えたかの理由を簡潔に説明する力量である。このクラスの受講者はビジネスマンに限っていないが社会での諸活動ではお役を得て存在感のある人たちである。
 
なぜ、この研鑽法を活用するか。それは、「話が長い」「何を言いたいか解らない」「一言で言えばどういうこと」と話し手に対する要望が多いことへの解決支援である。

各種の式典や限られた条件での一方的に話す場面での対応は、十分なる準備とリハーサルによる磨きはできる。しかし、ビジネスの現場や、社会生活では十分なる準備があっての話す場面は多くない。例え想定問答集や、マニュアル、指導の施しがあっても現場ではその通りにいくことはあるまい。

「このことについて端的に教えて下さい」「どう思いますか」「意見を述べて下さい」「態度を決めて下さい」……いきなり意思を問われる現実だ。

従って、階層別(管理監督者リーダー、中堅、新人)研修でも目的別研修(セールス・接客・クレーム対応……)、機能別研修(会議・発表会……)では、話力・指導力向上に関してはこの方法を組み入れている。この場合、カードに示すテーマは研修の特性に対応した工夫を凝らすことは言うまでもない。

例えば、行政の折衝交涉研修では「住民満足とは」「説明責任について」「当町の自慢」「高齢化社会」……であり、リーダークラス研修なら「リーダーシップ」「部下の長所」「当社の売り物」「聴く力」……。若手社員クラスなら「私の自慢できること」「健康法」「勉強」「友人」……。新人クラスなら「私が今実践していること」「プロとは」「嬉しかったこと」「当社の自慢」等々。
取っ付きやすく、切り口が多くあるテーマを工夫している。

◆単純明快な話力を磨く3条件
 
現実には、すぐ話し始める人、困ったな、の表情を見せる人、話し始めても明快な主張が出せない、ついつい丁寧になりすぎ時間が長く、1分の終了合図のベルに「えっ、もう終わりですか」とつい口走る人もいる。

それで良い。なぜなら、現状の対応が日常の活躍の場で「何を言いたいのか」「だらだら話すな、単純明快に話せ」等、会議での発言下手、質問されたことに対する明快な応答不足、報告時の結論を先にの基本実践不足等の現状の気づきの機会でもあるからだ。

ならばどうする。
単純明快な話力向上について確認してみよう。それは、次の3項である。

 1.筋道作りの工夫
 2.意思を創る日頃の実践
 3.聴き手を味方にする場対応

それでは、各項について簡潔に説明を加えていこう。まず、

1.筋道作りの工夫
演習では1分間で話す実践である。
1分間を文字数にすると300字ぐらいである。アナウンサーの標準は350文字と言われるが、感情表現は押さえての話しぶりだ。

しかしながら、実生活では心の表現には言葉であると同時に行動の表現も伴う。ましてや、言葉には、情感による語調が発生する。だからこそ、声の高低のみでなくスピードの早さも変化する。従って時間内で話す文字数は一概に決めることはできない。このことを踏まえて、

筋道は、
「こう思う」=主張 
「なぜならば」=根拠・理由付け
「だからこう思う」=結論
の3段階法の活用が良い。

話の構成としては「起・承・転・結」の4段階法が通常だが、短時間では起・承ときて「転」(全く違う話題での切り口を示す)余裕はない。短時間でも自分の意思をきちんと発信して、聴き手からの「なんでそう考えるの」「なんでそう言うの、その根拠はどんなことがあるの」など端的な説明を期待することへの対応である。

そして、テーマに対してきちんと結びつけての切り上げるとスッキリかつ、ピシッと決まる。
構成の一例を紹介してみよう。

・序論 
①挨拶     おはようございます。 
②名のり    営業部の澤田良雄です。
③テーマ紹介  今回は私の趣味について話します。
・本論
④主張すること  私の趣味はゴルフです。
⑤説明及び根拠  といいますのは、はじめたきっかけは、職場の同僚Kさんから誘われたことです。以来はまりまして、現状では仲間を誘い出かけています。先日は目標としていたスコア90で回れました。「やったー」と万歳し、仲間にハグしました。改めてその良さは何かと考えてみますと、自然との触れ合い、球を飛ばす爽快感そして語らい、更に目標の達成感があることです。このことは仕事にも通じます。
○体験、実践例、読んだこと、感じたこと、聞いたこと等話題を紹介
・結論
⑥まとめ ですからゴルフが好きです。今後も楽しんで参ります
⑦結び 以上で私の趣味について終わります
〇テーマをもう一度確認する。
⑧挨拶 ありがとうございました。
拍手

●特に、スッキリさせるコツは、適切な見出しを付けることだ。当例ではきっかけ、現状、良さは何か、今後を活用している。
明快とは筋道が明らかでスッキリしていることであり、なぜ、どうしての関心、疑問に対して理解、納得を得ることである。そのためにも、見出しを付け、センテンス(区切り)を短くした話の展開が望ましい。

2.意思を創る日頃の実践
次に「こう思う」の主張力を磨く方法を記してみよう。そのポイントは次の2点である。

第1は、学び毎の都度、このことには自分は「こう思う」の考えを付記する習慣付けである。なぜなら、主張は、その根拠となる裏付けの話題により創られる。その話題と学びの機会とはどういうことかといえば「よみかきする」とのことばに集約できる。即ち、

「よ」=読むことの学びから得る話題。新聞、雑誌、ネット、本、テキスト、データー、広告……。特に 新聞には、出来事、スポーツ、政治、コラム、家庭蘭など幅広い。
「み」=見る目に入る事柄で物、人物、情景、景色、状況等に関心を持ち、なんで、どうして の探究心が「観る」状態となり気にかける。 
「か」=感じることによる印象深い事柄で、喜怒哀楽、悔しい、難解、好き嫌い、五感での味覚、触覚、視覚、聴覚、嗅覚での感じもある。
「き」=聴くことにより得る学びの話題である。人、テレビ、ラジオで直接聞く、間接に聞く方法がある。
「する」=体験から学んだ話題で、実践そのことである。見た、聞いた、読んだことにネタよりも自身での実体験なので情報量は豊富だし、聞き手にとっては説得力が増す。成功体験、失敗体験などあるが失敗体験は聞き手が一番興味を持つことも現実だ。

こうしてみると、自分たちの日々の生活では、連続的に話題の中にいる。それが話すことがない、ネタがないとよく言われる。
それは、見れども観えず、聞けども聴けずのごとく、関心、感受性の弱いときであろう。

「目あれど美を知らず 耳あれども楽(がく)聴かず 心あれども真(まこと)を解せず 感激すれども燃えもせず」の言葉がある。

人の機微に触れる、琴線に触れるこの希薄さを憂いての示唆である。感受性を高めよ、表面だけみるな、視点を変えよ、そしてそれはどういう点で自身の生活と関係するかなど、考え、ひと言で表現してみると良い。

さらに記録しておくといざというときに活用できる。数点の考えが導き出されたら、キーワードを関連づけ図式化してみる事ことや、大項目、中項目、具体的小項目と体系化させておくことも良い。

第2は、「話は楽しく酒とせい衣食住」の話題を自分に問いかけ、答える実践である。
即ち「あなたの趣味はなんですか」と問いかけ、「それはゴルフです」「それはなぜですか」との自問自答である。
話題は会話の盛り上げ法として活用している一覧を下記に紹介する。

ハ=はやり(流行) ニュース的なこと
ナ= 仲間(互いの共通)、友人、メンバー
シ =仕事に関すること
ワ・ハ =夫、妻、家族の話
タ =旅の話、家族旅行、旅先の出来事
ノ=能力アップに関する話、特技
シ = 出身地、出身校、故郷の話
ク =工夫、アイデア、苦心談
サ= 酒に関する話、サスペンス(気がかり)な話
ケ=健康法、体力づくり
ト =特技、趣味、習い事、楽しみ
セ = 愛、恋、男女関係、セックス
イ =生き様、人生に関すること、終活
衣 = ファッション、着るもの、装飾
食 = 食べ物、うまい、安い、珍味、お薦めの店
住 = 住宅、住所、マイホーム,住環境

自問にも自答にも、いくつかの切り口に工夫を凝らしてみると楽しい。

3.好感力の高い話し方のコツ
いくら内容が良くても、話し方に配慮を欠くと聴き手の理解は得られない。単純明快にリズム良く受け入れていただくためには好感度の高い話し方は欠かせない。

話す姿が不愉快、暗い、覇気がない、聞こえない、早口、等と不評は「聴かない、聞き手にしてしまう。それでは話す価値がない。そこで次の3点に心することが肝心である。

① 表情=挨拶力を生かす。挨拶の「挨」は心を開く「拶」は迫る、近づくとの意味合いがある。だからこそ聞いていただきありがたいとの感謝の心を持つと自然に微笑みとなる。その表情は、人間的豊かさや、明るさがかもし出される。
「挨拶は心を開く鍵:こちらが開けば相手も開く
「笑顔は人と人の架け橋」:この心得が話し手の良い表情の基本となる。

但し、話す内容によっては、真面目さ、真剣さ、時には、悲しさなどが自然に表情に出て来るものだ。
そこに人間の味がある。単に内容をそつなく話しているわけではない。 

② 態度=話すとき、言葉は一応理性を通して現れるが、態度にはとかく理性よりも感情が表れてしまう。
人は耳で言葉を聞きながら目では話し手の態度・姿勢を見ている。このことを「目から入ることば」と称している。
この態度・姿勢には人間性が出てしまう。威張っている人はそのまま上から目線の不遜な態度が出る。そこで下記の点に留意しよう。

●威張っていませんか ●落ち着いていますか ●背筋・膝は伸びていますか
●足元は揃っていますか ●身だしなみはきちんとしていますか
●両手は自然に組んでますか ●お辞儀は丁寧ですか ●歩き方は美しいですか……。

③ 言葉=3つの調和に留意することである。
●相手の理解レベルに対応した言葉を使う。これは専門語(技術、業界・社内語、横文字等)をどう聴き手の理解レベルに落とし込むか。とかく、難しい言葉で話す独りよがりによる、易しく話す言葉の不勉強さから来る一方的言葉の押しつけになっては困る。      

「相手が理解できないのは話し手に原因あり」
●相手の心に調和する言葉。ひと言でいえば敬語的言葉の活用であり、不快感を持たせる言葉遣いには気をつける。今一度敬語の基本を確認しておくことも大切である。 尊敬語は、相手を敬う心配りの言葉で心の調和、謙譲語は、へりくだることにより、丁寧語は言葉を丁寧(お、ご、です、ございます)にすることによって相手の心に対して調和する。
特に若いからこそわきまえた言葉遣いが品格となる。そのコツは年上、上位者、顧客に尊敬の念を持つことである。

●また、場面に併せてひと言の工夫として <クッション言葉>がある。それはお願いするときや、注意を促すことでの配慮である。
例として 「恐れ入りますが」「申し訳ございませんが」「もしよろしければ」 「お手数をおかけいたしますが」「お差し支えなければ」「大変勝手を申し上げて恐縮ですが」等がある。

◆話力磨きは自己を生かすこと
 
人生100才時代との話題が飛び交う昨今である。単に息してだけの寿命でなく、生きている人生は、存在感を示し、自己の力を生かしていることにほかならない。そこには寄ってきてくれる人がいて、頼られる自分がいる。そして要請に応えて適確に施すことによって「おかげさま」「ありがとうございました」と感謝を得ることである。

その基本能力は何かと問われれば、それは話す力もあると答える。それは、今周囲に見えていない内側の潜在能力を顕在する架け橋が話力であるからだ。

この力量が低ければ自己能力を生かし切れないまさに自分を粗末にすることである。あのときに言っておけば良かったとの悔いや、誤解され落胆したとの体験談も多く聞かされるが、それは正しく伝わる話力不足に他ならない。

自己の主張(考え、建設的意見、提案、指示・指導など)を筋道立てて、解りやすく、感じよく話す、この、伝わる話力は是非磨き込むことである。話力は生涯にわたって自己を生かし、存在感を得る基本能力である。
 
今回はその一環として、1分間スピーチに着目し基本事項を確認してきた。通常話す条件は、テーマに対して、時間により、主張数、裏付けの話題数が決められてくる。

「全部話せなかった」とはそれはあれこれ話したい欲張りによる主張数、話題数が多いからであり、取捨選択、優先順位、重要度、選択と集中とよく使う言葉をここにも活かせば良い。
 
従って1分間の話は、時間対応により、主張項目を追加し、根拠、理由をより詳しく、具体的に話すことにより5分、15分でも30分のプレゼンテーションにもなる。
 
即題、お題拝借の体験はその錬磨に役立つ方法である。必ず単純明快に話せる話力向上になるからこそ、再び話せる機会を得ることが可能になる。

春、張る、新たに張り切る心意気のときである。「新」とは、全く新規なことを産み出すことだけでなく「もともと内に潜む物を掘り起こし、引き出すこと」でもある。

春、芽が吹き出し、やがて花を咲かせる。どんな新たな芽を周囲に魅せるのであろうか。それは話力如何である。

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◇澤田良雄氏

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/