小池浩二氏の [継栄の軸足] シリーズ (40)
【戦い方のセオリーづくり 全4回】
第2回目「守れば天国の目標原則、崩すと地獄の現実原則」
小池浩二氏(マイスター・コンサルタンツ(株)代表取締役)
経営には、守れば天国の「目標原則」と、崩すと地獄の「現実原則」がある。
目標原則とは、これができれば経営が楽になるという原則で、現実原則とは、絶対に外してはいけない原則である。
■目標原則
「目標原則」について、借入金を例にして説明してみよう。
借入金には短期と長期があり、資金繰りの円滑な会社は、短く借りる「短期」のほうがよい。反面、資金繰りに問題のある会社は長く借りる「長期」のほうがよい。
借入を行う際には、毎月の返済金額を削減することにより、資金のバランス化を第一に考える。人間の体と同じで、会社にも守らねばバランスを崩す計数指標がある。
借入金に関する目標原則は以下の3点。
① 支払利息は営業利益の3分の1以内に押さえる
② 借入金は月商の3ヶ月以内に押さえる
③ 借入金は総資産の30%以下に押さえる
会社によっては無借金経営の会社もあるし、借入金が総資産の50%を超えている会社もある。会社に急激な変化があるときは、資金面で必ず「激痛を伴う副作用」がくる。特にメーカーでは、工場建設などの設備投資をすると「体」のバランスが崩れがちになる。
要は、先の借入金の目標原則を押さえ、入る資金の目測を間違えないことだ。これは経営者の決断である。
■現実原則
経営のバランスを見る現実原則としては、「固定長期適合比率」がある。
経営では、自己資本で固定資産を賄うことが原則とされている。しかしこの原則は非常に厳しい。
その補助指標として固定長期適合比率がある。これは固定資産が自己資本と固定負債の合計によりどの程度賄われているかを見る指標で、長期の支払能力の有無もみる。目安としては、100%以内が絶対目安とされる。これが崩れると会社は必ず傾く。固定資産の資金を運転資金から賄うから、当然ランニング資金が詰まり、おかしくなる。
■事例企業
現実原則を守っている企業と、崩してしまったA社の例である。
《A社の基本数値》
●固定資産400 ●自己資本100 ●固定負債200 ●流動負債700
●流動資産600
A社は固定資産が400あり、それを賄う自己資本と固定負債の合計が300である。つまり、固定資産を自己資本と固定負債の合計金額で補えない状態で100不足している。この不足分は単年度で処理していく流動負債から調達するしか方法がないので流動負債700から補っている。そうすると、実質的に流動負債が600になり、流動資産600と同じ金額になるから、通常の運転資金が回らなくなる。
このA社は、機械用部品の下請加工業を営んでいたが、財務体質が極端に脆弱であり、業容拡大のために信用金庫から借入を行った。だが、工場の新設と併行し加工用機械設備の新規投資をしたのが命取りになった。固定長期適合比率が160%と高くなってしまったのだ。
*固定長期適合比率……固定資産が自己資本と固定負債により賄われているかをみる指標で、長期の支払能力があるかもみる。100%以内が目安
明らかに設備過剰であり、短期の借入金などで設備投資を賄い、運転資金が圧迫されている様子がうかがえる。設備投資は既存固定資産との合計金額が最低限、固定負債と資本の合計以内に抑える経営の原則を無視した結果である。
「固定長期適合比率を適正に保つ」という現実原則は絶対に崩してはならない。
資金がないから、他人資金を入れる。入れるのはある意味、条件が合えば簡単だろう。しかし、この感覚は麻薬になるし、続けると金融機関・金融会社・知人友人・消費者金融とだんだん他人資金の色が悪くなるし、私的紙幣の手形に依存するようになる。
現実原則として死守していただきたい指標は、以下の通りだ。
① 年商80%以上の長短借入金
② 売上に対する金利負担率が10%以上
③ 支払手形の決済は売上高の40%以内
④ 手元資金の翌月繰越残は20%以上
⑤ 1回の投資基準は月商の2カ月以内
この現実原則のモノサシを持って、自助努力で問題を解決しないと地獄が待っている。
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筆者 小池浩二氏が【中小企業に必要な経営の技術】の概論を動画で説明しています。
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