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「生産性革命は『高業績労働システム』で」(神田靖美)

働き方改革時代の生産性向上策-(2)

「生産性革命は『高業績労働システム』で」

神田靖美氏(リザルト(株) 代表取締役)

■残業を7割減らす必要

労働基準法が改正されて、企業は従業員に年間360時間しか残業(休日勤務を含む)をさせることができなくなりました。1か月の残業が100時間を超える会社はいくらでもありますから、その場合は7割以上残業を減らさなければなりません。これは精神論だけで達成できるようなものでは到底なく、安倍首相が言うように「生産性革命」を起こさなければ実現できません。では「革命」の手段にはどのようなものがあるでしょうか。

■生産性に最も大きな影響があるのは「人材活用」

まず、企業の活動の中で生産性に対して一番影響が強い要素は、人材活用です。イギリスで行われた調査(※1) では、「競争戦略」「品質」「製造技術」「研究開発」「人的資源管理」という5つの経営活動の中で、労働生産性と一人あたり最終利益の両方で、人的資源管理の影響力が最も強かったという結果が出ています。

■高業績労働システム

生産性を向上させる人材活用策にはいろいろなものがありますが、その中に「高業績労働システム(High Performance Working Practice)」というものがあります。
これは、

1. 従業員の知識・スキル・能力を向上させる施策の指標

① 情報共有プログラムにアクセスできる従業員の割合
② 職務分析の対象となっている従業員の割合
③ 昇進はどの程度、外部からの採用ではなく、内部の人材で埋められているか
④ 定期的な意見調査の対象となっている従業員の割合
⑤ 職務充実プログラム、QCサークル、従業員参加プログラムの対象となる従業員の割合
⑥ グループインセンティブ給与の対象となる従業員の割合
⑦ 過去12か月間で実施された、一人あたり教育訓練時間
⑧ 苦情申し立て制度が利用できる従業員の割合
⑨ 採用試験を受けて入社した従業員の割合

2. 従業員のモチベーションを向上させる施策

① 評価を通じて賃金が決定される従業員の割合
② 成果査定の対象となる従業員の割合
③ 昇進に際して、年功ではなく評価が重視される程度
④ 最も頻繁に採用が行われる5つのポジションに対して、平均何人の応募があったか
という一連の人材活用策で構成されます。
 
これらをすべて行わなければ効果がないというわけではなく、どれだけ徹底するかによって、業績に差が出てきます。

■高業績労働システムの効果

1995年にアメリカで、従業員100人以上の968社を対象に行った研究(※2) によると、上位16%に位置する企業(上位16%以上のすべての企業ではなく、上から数えてちょうど16%に位置する企業)は、全体の平均に比べて、
①従業員の退職率は1.3低い、
②一人当たり売上高は27,000ドル(当時の為替レートで280万円)多い、
③一人あたり利益は19,000ドル(同190万円)多い
という結果が出ています。

高業績労働システムを導入している会社はそうでない会社にくらべて、退職率、売上高、利益のすべてにおいて高い成果を上げています。これには業種や戦略による違いはみられませんでした。(※3)

やるべきことが多すぎて、気が遠くなるという方もおられるかもしれません。しかし、できることから手を付けて行くだけでも、高い効果が得られるはずです。

日本ではこのような調査の話を聞いたことがないので、推測する以外ありませんが、少なくとも中小企業では、おそらく相当数の企業が、上記の施策のうちひとつしか採用していないか、あるいはひとつも採用していない可能性があります。

たとえば、上記の中で教育訓練時間だけは調査結果がありますが、日本企業の7割はまったく行っていません。ひとつ導入するだけでも、退職率、売上、利益の面で、同業他社に比べて相当良いパフォーマンスを享受できるはずです。

(※1) シェフィールド大学とロンドン・スクールオブエコノミクスが1997年に実施した調査。
(※2) ハウスリッド研究
(※3) 須田敏子『HRMマスターコース―人事スペシャリスト養成講座』(2005、慶応義塾大学出版会)に書かれている内容を、平易な言葉で置き換えました。理論的に必ずしも厳密でない記述が含まれていることをお断りしておきます。

★2019年9月25日(水)埼玉県職業能力開発協会にて『人事制度基礎研修』(講師:神田靖美)開催します。

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神田靖美リザルト(株) 代表取締役)

1961年生まれ。上智大学経済学部卒業後、賃金管理研究所を経て2006年に独立。
著書に『スリーステップ式だから成果主義賃金を正しく導入する本』(あさ出版)『社長・役員の報酬・賞与・退職金』(共著、日本実業出版社)など。日本賃金学会会員。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。

「毎日新聞経済プレミア」にて、連載中。
http://bit.ly/2fHlO42