鬚講師の研修日誌(52)
「活力漲る組織を創るリーダーの楽しみ方」
澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)
この時期暑さを更に熱くするのが全国高校野球である。今年も話題の選手が多い。
例えば本格派の右腕、150キロ超の速球、県試合4試合無失点、県大会4、5、6本塁打のスラッガー、チーム15本の本塁打髙……がある。
こんな各選手の凄さをチーム力としてまとめ上げ令和初の頂点に立つのは何処のチームであろうか。楽しみである。同時に各々の個の力をどう組識力として育て上げ、期待に応えた貢献をするか。このことは企業活動に共通することであると改めて考察する機会とした。
先日農業団体の研修を担当した。ご存知のとおり、農林業を取り巻く環境は激動しており、組織編成の有り様も刻々と変化している。従って、組織活動を牽引する幹部職は新しい息吹を発信し成就するよう尽力している現状だ。
それは「あの人が選ばれ役職に就き、推進してからこう変わったと結果を導き出すこと」の期待に、変化のときだからこそいかに「初めて」の改革事例を生み出し、さすがの活躍を楽しむ取り組みである。
全国から参加した受講者はさすが、見識の豊かさと、人徳を供えた人である。そこには従来から積み上げてきた団体での活躍、あるいは行政、民間企業での実績もあるからこそ、団体の「高い信頼」に基づく備えの種まきとしての共済保険事業の推進者として選ばれた人である。
そこで、改めて円滑な組織活動の有り様を確認し合い、更なる「新」を創造する活力の漲り策に着目しての研修とした。
昨今、様々な分野で組織に関する話題が多い。そこで今回は、メンバー力を生かすリーダーの愉しみ方に着目した。
組織とは「一人の力ではなし得ない大きな事業を効率的に成し遂げるためにつくられたもの」と表される。
◆メンバーの「異 」の持ち味を強い総合力に形成する
組織はいろいろな魅力を持った人が集まって総合力を発揮する集団である。野球、サッカー、ラグビーなど専門性を互いに担い合って勝負を挑むスポーツもあるし、リレー競争での成すべき同様の専門力を繋ぐチームもある。
企業活動では専門分野での活躍もあるが、メンバーの活力発揮は多岐にわたる。例えば、製造ラインに着目すれば、ベルトコンベアー方式では分業化された単一作業の役割であったが、屋台方式となれば、一人完成作業であるから多能作業になる。
多能作業でも現在は人の力量をIT化することにより、デジタル機器と人との組み合わせによる少数精鋭のチームとなっている。従って、個の力である「異」の魅力をいかに相乗効果による総合力として生かし得るかがリーダーとしての手腕である。
「異」とは人は10人十色であり、知識、技能、体験、人柄、創造力、取り組み姿勢など各人各様、個性と評することもある。従ってリーダーはチームに発信した建設的な考えを、たて(上下)、よこ(同僚)、ナナメ(他部門・外部)の「異」の力を取り込んでチームとして、総合力を形成し、その発信の実現を楽しむことである。そこには、指導・育成力により「さすがの集団」を創り上げ、メンバーの活力漲る組織づくりの手腕発揮がある。
仕事ができる、人を生かせる、人を育てる、そんな逞しい統括者が組織の生命だ。
◆組織はリーダーのビジョンにより集約される
その第一歩は、ビジョンを示すことである。ビジョンとはどのようなチームにしたいのかを示す未来のメッセージである。
このリーダーの示す方向、方針に対してメンバー秘める希望が生まれる。希望とはどんな苦しいこと状態に置かれても勇気が湧き活力が漲り、喜びを生み出す源といえる。
では、希望に満ちた組織にはどのような条件があるのか確認してみよう。そこには次の5点がある。
① 価値ある目標=成り行きでは達成できない目標の設定があり、使命感を持ち誇りを持ってその達成に向けて打ち込める目標
② 目標の共有=価値ある目標は、構成メンバー全員がその価値を認め、個人目標への落とし込みが同じベクトルで成される。それには適切な話し合いは欠かせない
③ 役割の分担=皆が主役を実感できる役割分担。そこには、責任の分かち合いと多能化によるメンバー間の支援関係がある
④ 相互啓発の実行=互いの教え合い、学び合いが協働力を高めチーム力をより強くする
⑤ 人間力豊かなリーダーの存在=見識の豊かさ、徳ある人間味、それに感受性の豊かさによる気配り上手なリーダーが要の人となっている
希望の実現は目に見える、見えないことがあろうが皆で歓喜の瞬間を共有化できるには目標達成の場面が欠かせない。
◆漲るメンバーパワーを生み出すリーダーの仕掛け
その実現にリーダーとしてメンバーの目標設定をどうするかが鍵である。それはメンバーがチームに貢献できたとの役割を果たせた喜びを決めることにほかならない。
具体的には本人の設定目標に対する適切な判断と合わせ、現有能力にどれだけ育成と本人の啓発によって達成可能を見極め、達成方法に対するアドバイス・支援も重要である。
この適確さがなければ当初から意欲の高揚もなく、達成意欲の喚起も少なく、時としては努力が徒労に終わる結果になりかねない。
更に個々の活躍をチーム力として生かしていくための働き掛けは次の3点である。
① 最適なコミュニケーション実践=タテ・横・ナナメの双方向からの円滑な実践。特に 達成期間でのPDCAサイクルをスパイラルに回していく上での報連相は欠かせない。最終達成は機会を生かした「いける」との意欲喚起と、遅れがちの対応による未達成を防ぐことになる
② 指導・育成の施し=各自対象、必要対象者の集合研修、OJT、あるいはOFFJTへの参加派遣、自己啓発への支援など本人とのやり取りを生かし計画的に実施し、成長の認め、褒めをプレゼントする。リーダーは目標をOKしたときから指導育成の責任が伴う。「忙しくて教育なんてできない」との嘆きは御法度である
③ 喜働を助長する職場環境の醸成=活性力は良き対人関係、一言が明るく交わされ、いざというときの協力関係が良いことである
部下は「上の人に影響受ける」と共に、「環境によって影響される」。このことは二分されるわけでなくリーダーによる創り出される一体現象である。
「明るい」「元気」「楽しい」「乗りが良い」「張り切っている」「きびしい」との声は「やはりあの人がリーダーだから」との見方が大方である。
そこで、リーダーの働き掛けによる良き環境とはどのようなとらえ方があるのか具体的確認条件として列挙してみよう。
◆リーダーが創る漲る喜働を喚起する環境醸成
① 互いに率直に意見を述べ合い、後にしこりを残さない雰囲気がある
② 多少難しい仕事でも、積極的に取り組んでいこうとの雰囲気がある
③ 何か問題があると皆が協力し合いセクショナリズム(縄張り)責任のなすり付けはない
④ 問題解決に当たるときは、神経質に考えすぎないで一応の目途が立てば「やってみよう」との気運がある
⑤ メンバー間やグループ間の葛藤や対立を隠したり押さえ込んだりせず、明るみに出して処理することができている
⑥ 常に「なぜ」と問いかけ、仕事を改善していこうとの創造的雰囲気がある
⑦ 過去にとらわれず「未来を生み出すには、今ここで何をすれば良いか」との考えで行動する風土がある
⑧ 皆が仕事について知識や技能を高めるために努力しようとの雰囲気がある
⑨ 業務の結果をしっかりと検討分析し、次の業務に繁栄させ、常に仕事を前進させようとの考え方・実践が定着している。
⑩ お互いに個性や得意な領域を認め合い・わかり合っていて、新たなことへの総意や問題解決には、その組み合わせによって相乗効果を出している
⑪ 職場の事態や問題の事実をしっかりと捉えた上で、自律的で現実的な行動を取る。そこには一般論や、人の異見を鵜呑みにしない適切な判断をし合う
⑫ 皆が職場の当面している問題や課題あるいは目標を良く理解していると同時に、他のグループやメンバーの目標についてもよく知っている
⑬ 他の職場とのコミュニケーションが良く取れており、他の職場と協働して仕事を進めようとの気持ちが強い
いかがであろうか。職場診断として活用いただければ幸いである。
さて、組織活動は自分のところだけ良ければ良いということではない。「健全なる精神は健全なる身体に宿る」との言葉があるが、身体を組織(環境)とすれば、健全なる組織としてのキーワードは「コンプライアンス遵守」にほかならない。
◆信頼の誇りはコンプライアンス遵守
●ここまでの信頼は即座に吹っ飛ぶ……
昨今の企業の不祥事、官公庁の不祥事はなぜ起こるのだろうか。コンプライアンス、規程、ルール……等と徹底していますとの外向け宣伝は多いものの、いざ迷ったときの実践すべき段階では私利私欲、組織常識による判断が優先されている。
また、価値観の多様化、個性を生かすとの言葉も多い。そこから起こりうる状態に、自分ファースト、モラールハザートが横行することがある。
とすればそれは混乱を招き、秩序ある組識力にはなるまい。まさにガバナンス(統治する)云々が問われる羽目となる。発覚のたびに報道陣の前でのお詫びの末には「今後は組織内のコンプライアンスの徹底を図り……」と結ばれる。
果たして今後はあるのだろうか。信頼の回復は容易ではあるまい。その発火点はいずれにしても、「決め事を厳守する」(法令遵守・コンプライアンス)に対する組織としての自律の徹底不足である。それは個人であり、組織ぐるみと様々である。この自浄力は組織生命を決定するほどの重みがある。
つまり、組織活動が、社会的要請に応えながら健全活動をしていくための仕組みがどれほど構築され、いかにその遵守実践が確実に行われているかである。
まず、具体的遵守をなすべき各自の取り組み姿勢を確認してみよう。それには次の6点を徹底することにある。
●各自の取り組みは6点、この指導・支援
① 自分が働く企業(各種組織・団体・行政)は、良い企業であり、もっと良くなって欲しい、だから、自らその一役を担う覚悟(忠誠心)で、決して、自己都合の良い行動はしない
② そのために「何を、どうする」「何をどうしてはいけない」の決め事を熟読し、自分のものにして、決め事は完全に守る
③ 自らの仕事で「まずい」「気になる」と感じたときには隠蔽することなく、直ちに直属上司に報告、連絡、相談のアクションを起こし、予防、未然対策、ことによっては早急なこと後対策を仰ぐ
④「このくらいは許されるよ」のこのくらいがくせ者、これが段々ゆるみを生じさせる。やがては、「なんでそんなことを」と不祥事に繋がる。自己に都合の良い論法で、守る厳しさから逃げない。どうして迷ったときには上司の指示を得る
⑤ 周囲にアンフェア(正しさがない)を感じたら、直属の上司に直ちに知らせる。この場合、報連相の形を取る。なぜなら「通報する」との行為に抵抗があったり、以後の自分の立場に不安が起こらないとも限らない。組織内にコンプライアンスの通報部署(窓口)が制定されている場合は、この仕組みを利用すればよい。ただし通報を妨げる諸処の行為には手が打たれていなければならない。特に不祥事が上司や、組織ぐるみのときにはこの仕組みの活用が得策である
⑥ 職務での経験値を積んでいくと経験知が高まる。そこにキャリアが生きてくる。良き方法を提案し、変えられる決め事であれば、発展的改正に寄与させる
リーダーとしては、以上の実践を確実に行うよう指導、支援を施し、更なる未然防止策としては、組織で設定されている仕組みに準じて、次の施しが必要である。
●未然防止への即断即行の対応
① 内部監査制度の活用
② 職場で目にする現況(人・業務資料)での不審事項のキャッチと追及
③ メンバーの報連相時の内容・する人の挙動・特に質問に応える言動の不自然さのキャッチと、潜む危険状況の解決
④ 優秀な人への任せ切りの改善、それにはダブルチェックの仕組み等がある
⑤ 住まいの近隣者の情報(近隣の出来事・企業に対する噂)……この機会に「おや!」「ヒャ!」「ハッと」と少しでも感じたら即、確かめる。
この5点の実践である。
それには、 正しく成すべきこと・規程・約束ごと・道徳感・倫理観を自ら高め、現実が反していることは即、手を打ち、察しを活かした先を案じた事実には、即刻解決に当たる。
未然防止とは、その察しを生かした対応であり、起きる芽を摘む策である。リーダーの正しい判断力に裏付けされた厳しい感性がそこに生きる。
勿論「上(かみ)行えば下(しも)見習う」のごとく模範的実践者であることが前提である。
●パワハラ・セクハラとの話題も多いが……
その原点は、日頃の上下の信頼関係が問われる。それは、パワハラ、セクハラと訴える人は下位者がおおよそであるからだ。
ここまでの組織活動の確認事項がしっかりできているならばこのような事態は起こることはないだろう。パワーハラスメントとは、厚労省の意味づけでは、
「同じ職場で働くものに対して、職務上の地位や人間関係等の職場の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行ため」
と定義している。
そして、具体的行為を裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき次の6例を典型例としている。
1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
2)精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4)過大な欲求(業務上明らかに不要なこと遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5)過小な要求(業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命ずることや仕事を与えないこと
6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
そしてセクシャルハラスメントは人の尊厳を不当に傷つけるだけでなく個人の能力発揮も妨げることから結果的には組織の実績にも影響もする。単なる行為者のみならず、組織としての損害を被る可能性が高いことは十分に理解されている。
しかしながら無意識の言動もあるようだ。「男(女)のくせに」「今おいくつですか」「恋人いますか」「スカート良いね。もっとはいたら」……
いかがですか?。だからこそ、前記したように人間力豊かなリーダーとして自律・自制心を活かした場対応を施すことにほかならない。
◆笑顔のメンバーを生み出す組織は広く貢献する
20才女子プロ選手が全英オープンで優勝した。42年ぶりの海外メジャーでの快挙である。笑顔でお菓子が大好きだそうだ。インタビューに答えた「タラタラしてんじゃね~よ」のお菓子が爆発的に売れそうだ。
先の冬季オリンピックでのカーリング競技でのもぐもぐタイムでの「赤いサイロ」は現地の和菓子店で購入するのは今でも容易でない。また、男子体操での外国遠征に持っていくと言ったブラックサンデーもヒット商品となった。ありがたい現象である。
話題選手の出現は、例え、個人競技でもその選手の活躍を支えるチームがそこにある。また、急なる販売対応も送り出す生産、物流……組織集団の企業の見事な対応がなければ機会損失となる。
企業活動の新たな時代も半年経過した。実を生み出す後期に向けたこの時期、笑顔溢れる活力での組織活動で、達成感の実感を組織(チーム、企業、諸団体)全員の笑顔で愉しみたいものである。
そのための確認(提起する)を今回は記してみた。「多く人の喜びを創る」「社会に貢献できる」とは組織に所属したメンバーの初心の想い(希望)である。
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東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/