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「不況の足音が近づいています」(日比恆明)

【特別リポート】
「不況の足音が近づいています」

日比 恆明氏(弁理士)

今年1月から始まった新型コロナウイルスの感染を防止するため、政府は4月6日夜に緊急事態宣言を発令しました。ウイルスに感染する原因は飛沫によるもので、集団感染を防止するには密閉、密集、密着の三密を避けることが必須となります。三密となる環境は、飲食店、イベント、カラオケ、映画館などの密閉した屋内が該当することになります。

こうして、爆発感染を防ぐため、4月9日から飲食店などに営業の自粛を要請しました。東京都では、小池都知事による「ステイ ホーム」戦略が叫ばれました。この要請により、居酒屋などの飲食店の営業時間は短縮され、多くのイベント、映画館は中止・休館することになりました。
 
この自粛によりウイルス感染者数は減少したため、6月19日には自粛要請を解除し、飲食店は従来通りの営業に復帰しました。油断して都民が繁華街に繰り出したことで、爆発感染が発生し、今度は毎日200人以上の感染者が発生することになり、再度の自粛要請が行なわれる結果となりました。
 
飲食店、小売店などは営業の要請により、営業時間の短縮、一時休業を行なったため、売上げは減少しました。その補填をするため、政府、東京都からは持続化給付金、雇用調整助成金、家賃支援給付金などで支援することになりました。しかし、これらの支援策であっては飲食店、小売店を維持するには全く足りません。このため、ウイルスが原因による倒産が発生しています。
 
実際には、倒産する前に事業から撤退していった企業も多いようです。企業が撤退するとどうなるでしょうか。当然のように、その業界の売上げが減少し、活性が削がれることになります。そして、関連する他の業界にもその影響が波及し、社会全体が沈静化することになり、不況になります。

現実に、国内総生産(GDP)は減少しており、今年4月から6月の間のGDPは前の3か月に対して-6~8%となり、年率では-20%以上になると予測されています。不況の足音は刻一刻と近づいているようです。
 
このような状況で、東京の繁華街にどのように影響があるか、を調査してみました。8月11日の午後、新宿区西新宿1丁目付近、つまり、ヨドバシカメラ本店が含まれる2百×3百メートルのブロックを観察することにしました。

この1つのブロックを縦横に歩き、それぞれのビルの案内板から空室状況、撤退状況を調査しました。この調査では、約2時間をかけてほぼ全てのビルを把握しました。


                 写真1

写真1はダイコクドラッグの店舗で、8月5日に撤退していました。この店舗は1階と2階を使用していて、床面積は広いものでした。中国からの観光客を相手にしていたため、売上げが減少したので撤退したと思われます。なお、ダイコクドラッグは西新宿で他に2店舗があり、そちらは経営を継続しています。


                 写真2

写真2は1階部分が全て撤去されたビルで、ここにはパチンコ店がありました。地下にはサイゼリアがあり、2階以上には居酒屋が入居していました。このビルでは全てのテナントが撤退して空きビルとなっていました。比較的早い時期に撤退したのですが、コロナによる影響ではなく、ビル一棟を売却するためにテナントを撤去させたのかもしれません。内情は不明です。

                  写真3

写真3は、アメリカ風のディナーバーであり、床面積の比較的広い飲食店でした。ここは5月31日に撤退していました。この店はチェーン店であり、銀座、赤坂の店舗は現在も営業を続けています。
 
今まで、路面店で撤退した店舗を見かけることは少なかったのですが、7月以降には多くの店舗が撤退しているのを見つけました。7月、8月になって撤退する店舗が目立つのは賃貸契約によるものではないか、と推測しました。店舗の賃貸契約では、賃借人から家主に契約解除の申し入れをしても直ちには撤退できません。通常、申し入れをしてから4か月から6か月を経過しないと解除にならない契約となっています。すると、今年4月に賃借人が契約解除を申し入れても、店舗の明渡しができるのは4か月後の7月末となります。

こうした契約による縛りにより、賃借人がコロナの影響で経営継続を断念したのが4月であっても、実際に閉店するには早くても8月ということになります。今回の調査で閉店になった店舗が目立つようになったのはこのような理由からでしょう。

                 写真4

写真4の居酒屋は既に4月に閉店したのですが、5階建てのビルの全ての居酒屋が撤収していました。それから4か月を経過したのですが、新しく入居するテナントは無かったようで、1階のガラス戸は防護のためのベニヤ板で囲われていました。


                  写真5

この日、撤収作業をしている店舗は2か所ありました。写真5の店舗はスパゲッティ専門店で、渋谷に本店がある老舗です。

                  写真6

写真6の飲食店はフランス料理店で、小さな店ですが同じ場所で40年近く経営を続けてきました。居酒屋が多い地域でのフランス料理店は珍しく、それなりに繁盛していたようです。この店舗の撤退はコロナによる影響ばかりでなく、店主が高齢になったのが廃業した理由なのかもしれません。

                  写真7

この居酒屋はヨドバシカメラ本店の反対側にあり、場所的には良好な位置にあったのですが撤退したようです。内装を撤去して現状回復することなく、居抜きでの賃貸を募集していました。しかし、居酒屋としては33坪は大きな面積であり、入居の費用はかなり高額となると思われます。

                  写真8

写真7はテナント募集を掲げた貸しビルです。募集の看板を掲げたビルは他にもう一か所を見つけました。多くのビルは空室があることを知られたくないのか、空きフロアーがあってもこのような看板を掲げる例は少ないようです。


                  写真9

とあるクリニックのシャッターに貼られた案内で、「4月18日から当面の間」は臨時休業しますという内容です。すると、4月から4か月もの間休業していて、もしかしたらずーっと休業、要するに廃業しますという意思表示かもしれません。


                  写真10

路面店での撤退は道路から見て直ぐに判断できるのですが、ビルの2階以上に入居しているテナントであっては現在も入居を続けているのか、それとも撤退中なのかは不明です。しかし、ビルの入口などを観察すると撤退中の賃借人がいることが判ります。

写真10では、入口の付近に作業道具や解体された家具が雑然と置かれていて、撤去作業が行なわれているのが判ります。この写真以外に、数箇所のビルの入口では撤去作業が行われている実態が見かけられました。

                 写真11

貸しビルでは、空室になった部屋のポストに投函されないよう封印しています。封印されたポストの数だけ撤去したテナントがいるのでしょう。しかし、ビルによっては必ずしも封印していない場合もあり、実際にはもっと多いと思われます。

なお、貸しビルに現在空室があったとしても、それはコロナの影響によるものかどうかは判断できません。コロナ騒ぎよりも前から空室であったのか、それとも他の要因により退室したのかは不明だからです。

                  写真12

このビルは4月初旬に竣工した5階建ての貸しビルです。このビルを建設する計画は2年以上前から立てられていて、竣工したのが今年4月だったのです。全館が空いていて、入居の見込みは薄くなっています。家主が悪いわけではなく、偶然にも竣工とコロナ騒ぎが同時期であったのでした。家主にとって不運と言わざるを得ないことです。建築費用は銀行からの借入れではないかと推測されますが、毎月の返済は大変なことでしょう。

私が調査した結果を地図で表示しました。フロアーが空いているビルには●の印を付けました。空室があるかどうかは、ビルの案内板を見て判断しました。しかし、空室であっても案内板にはテナントの社名をそのまま掲示していることもあります。このため、フロアーが空室となっているビルはまだあるのではないか、と推測されます。