真田幸光の経済、東アジア情報
「アジア開発銀行(ADB)の最新経済見通しについて」
真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)
新型コロナウイルスの感染拡大による影響が残る中、世界は、今後の経済動向がどうなるのかについて、高い関心を示しています。
当たり前のことであります。
予測しにくい変数要因が多く、それを如何に織り込むかで、予測を発表する各機関の見通しが変わってきますが、私が見るところ、各機関の見通しは、総じて、条件付きながらも、堅調に推移、経済成長は改善してくるとの見方をしているようです。
こうした中、世界銀行グループの一翼を担う国際金融機関の一つであるアジア開発銀行(ADB)は4月28日、
「アジア経済見通し」
の最新版を発表しました。
これによると、2021年のアジア発展途上国(アジア太平洋地域45カ国)の経済成長率の見通しを従来の6.8%から7.3%に引き上げています。
堅調な世界経済の回復や新型コロナウイルスのワクチン接種の進展を見込んだ為とも説明されています。
昨年は0.2%のマイナス成長だったものが、今年は大きく改善、また、2022年の経済成長率も5.3%と予想しています。
しかし、ADBは、ここで、懸念材料として、
「新型コロナウイルスの感染再拡大やワクチン接種の遅れなどで移動の混乱が長引き、地域の経済活動が停滞する恐れがある」
ともコメントし、
「経済成長見通しに対するリスクは下方に傾いている」
とも付言しています。
ADBは報告書で、
「アジア開発途上国では全般的に成長の勢いが増しているが、新型コロナウイルスの感染再拡大は世界的大流行が依然として脅威であることを示している。
また、地政学的緊張や政治的混乱、生産のボトルネック、金融の混乱、学校閉鎖による学習機会損失の長期的な悪影響なども回復のリスクになる」
と総括しています。
一部の国が新型コロナウイルスの感染抑制に苦慮する中、ADBは、
「景気回復がまだら模様になる」
ともコメントしています。
尚、ADBは、中国本土の2021年の経済成長率は8.1%となる見込みであるとし、前回予想の7.7%から上方修正しています。
そして、その背景として、中国本土経済が、力強い内需と輸出に押し上げられるとしており、また、2022年の経済成長率は5.5%に鈍化すると予想しています。
南アジアの今年の成長率は9.5%と、インドの成長に支えられて昨年のマイナス6.0%から急回復するとしています。
その牽引車となるであろう今年のインド経済については、ADBは、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なものの、11.0%の成長率が現時点で達成可能であるとの見方を示しています。
前回予想は8.0%、昨年はマイナス8.0%でありました。
ADBは、
「インドのワクチン接種は順調に進んでいる」
とし、2022年までに集団免疫を達成できる軌道にあるとの見方を示しており、こうした強気の見通しを続けているようであります。
更に、東南アジアの今年の成長率見通しは4.4%に下方修正しています。
2月のクーデター後の大規模デモやストライキ、他国の制裁措置などで打撃を受けているミャンマーで9.8%の景気縮小が見込まれるとしています。
尚、アジア発展途上国のインフレ率は、食品価格の上昇圧力が和らぎ、昨年の2.8%から今年は2.3%に低下する見通しとしていますが、来年には再び2.7%に上昇すると予想されており、インフレ懸念を示唆しています。
参考にしておきたいと思います。
真田幸光————————————————————
1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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