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「対面型コミュニケーションを生かした『創る研修』の楽しみ」(澤田良雄)

髭講師の研修日誌(77)
「対面型コミュニケーションを生かした『創る研修』の楽しみ」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆造り上げた研修の一段階

「気をつけ! 礼。
ただいまから1Gの各自の研修の感想と実践事項の発表と、今後の活躍に向けてのグループ討議のまとめを発表いたします」
「まず最初に、今回のグループリーダーを担当しましたKから発表します。私は……」
終わると、受講者全員と研修担当部門、そして小生らが大きな拍手で労いとエールを贈る。

「次にSさんお願いいたします」「営業部のSです。私は……」と順次すすむ。
「では次に、討議のまとめの発表をAさんお願いたします」
「発表します。営業所のAです。1Gの努力事項として3点あります。1……2.3.です」
と力強く読み上げる。
会場の全員から頑張ってくださいの心を拍手で贈る。
結びは
「気をつけ、礼。以上で1Gの発表を終わります」。
会場一同から更なる拍手でG発表は終了する。
 
発表後直ちに、担当部門の3者から総括として、発表内容、研修中の受講態度、言動の変化、そして、採用時から入社後の見聞きする情報を生かしたコメントが贈られる。
 
例えば、研修中の先輩からの配慮に感謝、同期の絆は生涯の財産、「理解したことと、できることは違う」「ぜひ、学びを実践し周囲から変わったなとの声を引き出そう」…など、いずれも、担当部門だからこその評価とエールの直言は受講者ヘの心に響く。それは、今後の活躍に向けてのスターを切る心意気になるからである。

「造り上げた研修」の楽しみは、ここで一段落となる。

◆「各自が創る」ここでは上司との面談型コミュニケーション
 
次なるステップは、「受講者が創る学び」である。それは、各自の発表、Gの議論してまとめ上げた内容に加えて、総括での助言ポイント生かした「各自が創る成長」のヘの支援である。

その柱立ては、来年4月時の自己像のビジョン設定・その実現のための実践目標、そして不足能力を克服する自己啓発目標の設定である。ここに、自ら創り、実践することで造り上げて行く成長の楽しみである。
 
ここに一考を講ずるのが上司とのリンクである。部下育成は上司の最たる役割である。従って、本人が学びから掴んだ変わる覚悟で創り上げた目標の実践、その支援は上司にとっては育成実施の効果的機会である。

従って、記した3本の柱による作成シートを上役に紹介する。当然、記入事項に対するショートミーテイングが実施される。配属後の上司がとらえた評価もあるだろうし、変わって欲しい要望も持ち合わせている。

従って、目標の実践に向けての助言を施し、共有事項として記して印を押す。ここに面談型コミュニケーションが組み込まれる。以後はOJTの実践へと運び、来春には、目標達成に対しての自己評価と上司のコメントが実践される。
造る研修のひとまずの区切りの段階である。
 
ここまで記してきた研修事例は、先日出講した建設工具トップメーカーS社の新人7ヶ月研修の一端である。
 
コロナ禍での人と人の接触を極端に避けてのコミュニケーションの有り様も適切に緩和され 対面による研修活動も延期から、ようやく本格稼働の兆しが見えてきた。

そこで、長年の対面型研修活動による経験知(経験による知恵)から、対面型コミュニケーションを生かした「創る」「造る」「造り上げる」その研修活動の楽しみ方に着目し、その実践方法を提起してみよう。

◆創る研修の第一歩は対面型コミュニケーションによる担当者との融合
 
まず第一の心得は、企業内研修は社員が外部セミナーを受講するとは違い、企業での人材育成に取り組む中で、企業内での指導の術が不足時に、そこを補う役割が外部講師である。と心得ることである。それは、小生がかつて、企業での人材育成部門長としての体験からの鉄則としていることである。従って、依頼研修実施に当たっては、担当者及び主催者との「創り上げる研修」に取り組むことに尽力し、信頼を得、長年のお役立てをしてきた。

さて、具体的推進の第一歩は、「創る」段階である。創るとは、想いをつくることして研修企画の構築である。ここでの創りは、依頼側との可能な限りの情報を共有化しての議論をなし、折り合いを生み出すことである。折り合いとは、研修の最大の実効に向けて、互いに異見を交わし、最適な方法を生み出すための融合化である。そこに、両者の持ちうる強みを生かしたパートナーシップが成り立つのである。
 
折しも、S社の現在の社員の取り組みスローガンには、「議論を通じて全体最適の実現を」と掲げている。全体最適の思想は、自分枠、自署枠での改革案でなく、他部署にとっても、全社活動にとっても適正であり、それは、経営理念に基づく中期、今期目標の実現に即しているかの業務遂行判断である。
 
従って、担当講師は、その一役を担うゆえ、学ばねばならない。だからこそ担当者との打ち合わせ機会は重要である。しかも、必要に応じて何度か重ねることも良い。

ここでの対面型コミュニケーションでは、訊く(質問)ことによる学びのきっかけを作り、そして素直に聴く、そして、自身の考えを信念を持って伝えることである。それは異見であっても、先ず開示することが肝心である。そして、先方の考えを受けて練り直しをする。練り直しとは、自分の考えを捨てて先方に合わせることではない。新たな学びにより、より良い考えを生み出す過程である。

◆研修内容を創る対面型コミュニュケーション
 
研修内容の基本は、変えない内容、変える内容とのバランスである。なぜかと言えば、企業(行政・団体)の理念、基本的活躍の期待事項は変わることなく継続的指導が不可欠である。そして、新たな価値創造に向けて掲げられる戦略(中長期計画、年度計画…)の達成に向けての活躍条件は新たな必要能力が求められる。この育成必要能力として変わる内容と位置づけられる。
 
従って、ここでの対面コミュニケーションでの着目ポイントは、企業の現況、戦略内容、研修実施の思惑、受講者の特性、社内実施研修内容、リンクしての講師への要望事項等々の情報を提供いただくことである。勿論、当方で得ている情報との整合性等を確認することも怠らない。当方で得ている情報とは、企業、業界等の一般情報、HPでの企業の動向そして、送付いただいている社内報などがある。
 
加えて、長年、継続している企業様では、重ねてきた研修履歴を振り返り、毎回の印象に残ったトピックス(受講者、研修自体の出来事、クラス全体のムードなど)を持ちうる。なぜなら、担当部門の方々は変わることもある。だからこそ、その時だけの点対応の支援ではなく、線対応による最適な研修条件を生み出すには情報の共有化を念じてのことである。

◆訪問による面談は信頼を深め、多く学びが楽しい
 
打ち合わせには、訪問しての面談を第一としている。小生は、遠方に出かけることも多い。昨今のデジタル化に伴う訪問なくての諸方法の活用あるが、それはそれなりに双方が選択しベストミックスで実施をすれば良い。しかしながら、実際に対面ですることがより効果的であることは双方が望んでいることである。だからこそ、「面談によるコミュニケーション」へのこだわりが強い。なぜなら、この実践は、打ち合わせメンバーに、担当者の上司、部門長クラスが同席の配慮をいただけることである。事実、数十年継続している多くの企業様は、紛れもなくこの実践を重ねてきている事実である。
 
一方、初めて出講依頼企業の訪問時の利点は直に感じる情報がある。それは、企業の外部環境、つまり、地域性、都市、所在地環境、建物の特性などから社員の生活感のイメージができる。また、周辺を散策し、触れ合いを心しての住民に声がけしての対話、お店に立ち寄っての情報、タクシー運転手からお聴きする訪問先の現地の評判など実に学ぶことが多い。

それには、社員像の想像にも役立つ。さらに訪問企業の各所で見る現実事例、それは、社員と直接交わす言動であり、仕事ぶり、職場の3S(整理・整頓・清掃)状態、掲げられている言葉、広報情報などからの学びも多い。この学びは、あらかじめ掴んでいる情報での育成ニーズとの整合性を掴むうえで大いに役立つのである。
 
そして、担当部門との対面による人と人の全身コミュニュケーションは、第一印象のキャッチから、その後の意思疎通を交わす経過で、お考えを理解しつつ、その人柄を味わいつつ、以後の折衝の心決めをさせていただく。そこには、本気で育成に取り組む気概、小生に託す本心の程度(会うだけ、依頼意図の程度、当方ヘの依頼決断に向けた態度変容)を学ばせていただき、小生からのお役立てとして、情報、及び訴求内容を提供する。

この際、反応に注目する。それは、興味を持っての食いつき加減が、話される心意気と実施に向けた本意を語っているからである。勿論、自身が考えてなかったこと、例え考えを持っていてもそれほど重要視していなかったことから、新たな育成必要点を浮き彫りに、新たな研修への欲求を生むこともある。

いずれにしても、真に、依頼する、依頼を受ける上でのおおよその折り合いに結びつかねばならない。それは、双方にOK,NOの選択権を持ってのスタートだからである。だからこそ、双方の意向の合致は、面談によるコミュニケーションだからこそ深まる利点である。新たな学びによる融合化させていく過程は楽しいことである。
 
一応の折り合いをつけた共有条件は、以後「パートナーシップによる創る研修」の協力していく道しるべとなる。そして、想いを創り上げる段階へと進む。
 
その推進は、打ち合わせ時に共有化した条件を列記し、この内容を前提として、研修企画の提案を提出する事から始まる。そして、検討いただき、再度の打ち合わせとすすむ。ここでは、担当者の意見要望を得て、議論を重ね、建設的修正を加えて一応の研修実施に向けての研修の想いが創り上げられる。

ここでも、対面型コミュニケーションであるから、前回よりも親密感も深まり、忌憚のない本意での応酬を経て、実施における負荷条件への折り合いを創り出すのである。そこには、担当者としての講師任せでなく、自身も一役関わる責任と楽しみを持てるからである。

◆対面研修だからこその「造る・作る」研修の楽しみ
 
いよいよ、研修の実施である。造る・作るとは「こしらえる、しあげる」と意味づけさせていただく。つまり想いの現実の施しである。この段階での対面コミュニケーションは、受講者同士、受講者と講師、パートナーとしての担当者との連携である。そこには、心身を通わす楽しさがあり、施しによる成長が観られる楽しさである。但し、ここでのコミュニケーションで肝心なことは是々非々の物差しを受講者と共有化することである。
 
この物差しづくりには、まずトップの対面型講話を入れることがよい。講話の依頼内容の柱立ては、受講者への活躍期待、そこには企業の現況を語り、どういう活躍ぶりを願うかを提起され、その実践に向けて当研修実施をするとの内容がポイントである。
 
S社のH社長は「レンガ創りの三人の職人」の寓話を引用して、働く目的のとらえ方と企業理念をリンクされて見事に話された。寓話の内容は周知のことであろう。おおよそ次の内容である。

*旅人がある町を歩いていると、汗を流しながら重たいレンガを運んでは積み、運んでは積みを繰り返している三人のレンガ職人に出会いました。そこで旅人は、「何をしているんですか」と尋ねました。するとその三人のレンガ職人は次のように答えました。

●一人目は、「そんなこと見れば解るだろう。親方の命令で{レンガ}を積んでいるんだよ。暑くて大変だからもういい加減にこりごりだよ」と答えました。
●二人目は、「レンガを積んで{壁}を作っているんだ。この仕事は大変だけど、お金が良いからやっているのさ」と答えました。
●三人目は、「レンガを積んで、後世に残る{大聖堂}を造っているんだ。こんな仕事に就けてとても光栄だよ」と答えました。
 
S社は、社会にお役に立つ企業、人のお役に立つことを我が喜びとする精神を創業から掲げて発展してきた企業である。従ってこの寓話を引用して、三人目の職人の働き方を説いた。勿論、研修の受講への心得を含めてのことでもある。
 
そこで、この意図を研修の軸として、研修内容のリンク付けをし、受講者の言動、各自、グループの発表についても是々非々の診断を心して、褒めと、アドバイスの施しに尽力した。対面型研修だからこその、直に交わせるコミュニケーションであり、動きの診断を直に感受できる優れた指導条件の会得である。
 
従って、研修方法にも最適な方法を講じる努力も重なる。それは、あらかじめ用意した方法の駆使ではなく、第二、第三の方法の施しを惜しまない。「研修は生き物」であり、対面型研修の醍醐味はここにあると心しての支援、指導だからである。それには、個別、ペアー、グループによる体験学習で直に人対人との言動を通じて、自身のできる能力の確認、仲間の対応力から学ぶ自己の未熟さなどの気づきが創出される支援である。
 
勿論、講義も含め、全員へ、個人別に是々非々での指導、示唆を適宜施すのは必然であり、さらには、担当部門のときおりの出番を演出して、鋭く指導を頂く事を組み込んでいく。研修の善し悪しは「各自が創り、皆で造る」この楽しみ方を「造る研修」を合い言葉にしていることもここで記しておこう。
 
さて、その確認はどうする。この「創り」の実感は、冒頭に紹介した、各自の受講所感と心に抱いた実践に組み込まれているのである。例えば、

*7ヶ月ぶりに、同期で集まり、各自の活躍ぶりを知り、皆、しっかりと頑張っているんだと感じ、自分もさらに頑張ります。
*より良い仕事の方法を考えて提案し、部署の新たなやり方となったとの仲間の事例を聴いて、自分もそれだけの存在を得ようと思った。
*演習体験から、チームワークの大切さの実感、正しく伝える工夫、できた後の検証の重要性など、演習中の反省から浮き彫りにできた。今後、生かしていく。
*聴く・メモ、挨拶等馴れてきたことによる、最高実践が薄れている。初心に返って当たり前のことを心を込めて実践する。
などがある。

そして、グループでの発表としての今後の「当社の人財になる、来春には後輩の憧れの先輩となる努力条件」に組み込まれているのである。担当講師として実に楽しさを味わう時である。

◆後をみる楽しみ
 
ここでは、PDCAのサイクルをスパイラルに回す上でのCの段階。当然、対面コミニケーションによる担当部門との振り返りにほかならない。

そこには、「創り上げた研修」企画と「造る研修」での実施現場の反芻、そして受講者個別の診断などそれぞれの立場での見解を出し合う。

そして、今後受講者個々の気にかけた事項の指導支援を確認して、各自が将来の築城に向けてのOJTによる育成支援活動に生かすこととなる。時を経て、受講者がより周囲からの評価が高まり、それは、「あのときの研修のおかげです」と、受講者からの言葉が寄せられる楽しみを秘めることになるからである。その楽しみは、小生であり、共に創り上げた担当者であり、受講者仲間である。

さて、企業は人なり、人財育成が重要、学ぶことは新たな活躍を実践すること、学ぶことは変わることである。さてどうする。コロナ過での新たな方法を駆使して研修実績を残してきたことは事実である。しかしながら、変わりようの実態はいかがであろうか。
 
この時、対面型研修の実施に向けて推進を図り、より実効を生み出すためには、関係者と対面型コミュニケーションを生かすことである。本意で創り上げる対面型研修だからこそ、受講者に寄り添った研修現場が構築され、受講者が加わっての「楽しく創り上げる研修」となるのである。
 
今回記した対面型コミュニケーションの実践は、昨今、直訴される営業活動での課題解決や、協力関係の構築にも通ずる事は察しの通りである。 そこには、双方による最適な状況構築に向けて、学びの訊くことと、伝えることと、異見を聴くことと、学びによる新たな条件を加えての練り直しのプロセスが、螺旋状に回って折り合いをつけることである。このことを確認して結びといたします。

 

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澤田 良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の(株)HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/