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第4回【清話会会員企業インタビュー】㈱竹内ハガネ商行(増田辰弘) [ 第4回 ]

創業90年周年を超えて益々いぶし銀の味を出す―㈱竹内ハガネ商行

~利他愛の精神でまず取引先の利益を優先させることより成長する

【会社紹介】

株式会社竹内ハガネ商行

  • 設立:1930年8月
  • 代表者:代表取締役社長 竹内誠二
  • 事業内容:金型、工具用鋼材の在庫・即納販売、特殊鋼鋼材、非鉄金属材料、およびその加工品の販売
  • 資本金:5,000万円 

 

  • 鋼材の即納販売体制が強み

 冷間工具鋼などの金型用鋼材を扱う工具鋼流通の㈱竹内ハガネ商行(本社東京都大田区、竹内誠二社長)は創業90年を超える老舗商社である。正確にいえば仙台と名古屋に直営の加工センター、それに前田鉄鋼㈱、新潟竹内ハガネ㈱、長野竹内ハガネ㈱、㈱塩田鋼商店の4つの関連会社に前工程の生産設備を持つ一大製造商社グループである。

 ユーザーは全国に約5千社にも及ぶ金型メーカーである。「プレス金型コンサルタント」として金型用鋼の販売を約10億円にも及ぶ常に多品種の鋼材在庫を所持し即納販売体制で運営する。これだけの在庫を所持し即納販売体制が出来る企業は全国でもそれほど多くはない。

竹内社長は、「この商売をやっていると日本企業の産業の盛衰が分かります。昔は電気、電子産業が随分多かったのですが激減しましたね。今は何と言っても自動車です。

金型メーカーは社員20人以下の中小零細企業が多い。親切丁寧に材料選定、鋼材の1次加工のアドバイスなどを行いながら販売をすることに心がけて来ました」と語る。

ここで、ものづくりの工程を少し説明すると、自動車、工作機械、電機機器などから建材、履物に至るまで大量に製品を生産する場合は、金属、プラスチック、ゴム、ガラスなどの原材料を切削しないで所定の形状にするために金型が必要になって来る。

従って、この金型にはプレス用、ダイカスト用、プラスチック用、ゴム用、ガラス用などに分かれるが、同社はプレス用金型の鋼材を扱っている。プレス用金型は、プレス機械に取り付けて、金属板のプレス成形を行うもので、抜き型、曲げ型、絞り型などがあるが、これらを一型の中に組み込んで自動的に抜き、曲げ、絞りの作業を順送りで繰り返し行うものである。

多くのメーカーが、新製品を作ろうとすると金型メーカーに金型を発注する。㈱竹内ハガネ商行は、この金型メーカーの相談を受けながら金型の原材料である特殊鋼を供給する。大同特殊鋼や愛知特殊鋼などから様々な特殊鋼を大量に仕入れ、準備をしていてユーザーの要請に応じて即納できることが大きな強みである。

 

  • 鋼一筋 竹内家3代の系譜

㈱竹内ハガネ商行は、1930年に東京品川の鈴ヶ森に現社長の祖父である竹内熊太郎氏が創業した会社である。当時海外材が中心だった特殊鋼材などの金型材の輸入と工具の販売を開始した。

その後1955年に父である竹内三郎氏が2代目社長となり、1988年に竹内社長が3代目社長に就任している。この竹内家3代90年でグループの売上が約100億円、社員総数290人の堂々たる製造商社グループを創り上げた。

何よりも竹内社長のすごさはそれを感じさせないことである。とても(社)全日本特殊鋼流通協会の会長をされてこれだけの実績の会社を経営している方には見えない。大変失礼だが小さな商社の人柄の良い社長さんのようである。

そして、話す内容も「一般の利幅が5~7%ですが、うちは20~30%いただいています」「プレス金型コンサルタントとは言ってももう今はパソコンで見ると解かる人にはほとんどわかります」と自社の存在感はあまりないかのような発言をされる。

しかし、いくら様々な特殊鋼を大量に仕入れ、要請に応じて1次加工を行いユーザーの即納できることが大きな強みと言っても、それだけでこれだけの企業規模を90年間持続できるのはなぜなのか。どうしてこんなに多くのユーザーを長期間確保できるのか。

どうも同社の経営の強さ、しぶとさは経営理念にあるように感じる。これは先代の竹内三郎社長の教えで社訓にもなっている同社の経営の道案内でもある。

その第1は、会社の財産3分割方式の堅持である。即ち、過去の戦争体験などから会社の財産は土地、株、現金に3分の1に分けて置きなさいということである。竹内社長は自分の代ではどうも現金の割合が少し多過ぎると話している。

第2は、店を拡張する時は(設備投資をする時は)不況時にせよ。不況の時期は土地も建物も安くなる。確かに同社の営業所や加工センターの整備は不況時が多い。

第3は、銀行に十分現金を持つこと、第4は、銀行、商社、メーカーに頭を下げることのない体質にすること、この第3と第4は誰しもそうしたいと考えるが難しいことが多い。どこかに無理をして売上を伸ばして会社を成長させることはしないという老舗企業のゆとりのようにも見える。

第5は、利他愛の精神で物事に当たること(まず取引先の利益を優先させること)である。常に相手の立場で考えるということである。これは同社の経営陣から社員向けのメッセージでもある。

竹内社長が副社長の時の1980年に仙台営業所でリストラを行った。この反省からバブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災など経営が苦しい時期もあったが、その後は1人のリストラも行っていない。この常に他の企業、他人を思いやる姿勢が長期の安定した経営基盤を創り上げたと思われる。

 

  • 地域密着型の在庫、切断、即納の3機能

 さて、全国5千社の金型メーカーに金型の原材料である特殊鋼と1次加工品を供給する同社の体制であるが、全国を東北地区、関東地区、東海地区、関西地区の4つに分け、それぞれに地区本部を置いている。

1次加工品については、東北地区と東海地区以外は主にコストパフォーマンスの観点から関連会社を中心に対応している。関連会社の愛知県春日井市にある前田鐵鋼㈱社員は110名で年商は30億円で東海地域のユーザーを中心に対応している。

同様に、新潟竹内ハガネ㈱は社員40名で年商は12億円で北陸地域のユーザーを中心に対応している。大阪市にある㈱塩田鋼商店は、社員15名で年商は5億円で関西地域のユーザーを中心に対応している。長野竹内ハガネ㈱は社員15名で年商は4億円で長野地域のユーザーを中心に対応している。

この4社を合わせると、社員数が180人、年商が51億円であるから相当な規模である。本体の㈱竹内ハガネ商行が社員数110人、年商が50億円であるから、ほぼ同じ規模で関連会社を配置していると言って良い。

大手メーカーが新製品を開発し生産体制に移行するために金型メーカーに製品の金型を発注する。これはもう次の販売計画が決まっているから多くの場合相当に急いでいる。しかし、新製品はメーカーの秘密事項であるから金型の情報をそれほど多くのことを事前に知らせて貰えるわけではない。

一方、同社のユーザーである金型メーカーはその80%が従業員数20人以下と零細企業であり、多くの機械設備を所持しているわけではない。そこで金型の作業がスムーズに着手しやすいように1次加工をしておくのが同社の役割である。

このことで早く、正確で良質な金型で良い製品をつくり上げることができる。即ち地域密着型の在庫、切断、即納の3つの機能が強みであり、また多くのユーザーである中小の金型メーカーにとっては不可欠なのである。(図:竹内ハガネ商行 金型用鋼材供給体系図参照)

 

  • 更なる高付加価値製品への挑戦

埼玉県加須市の加須大利根工業団地に竹内ハガネ商行の関東地区本部がある。ここの広大な作業場兼倉庫に同社の在庫10億円のうち6億円分の鋼材が保管されている同社最大の集積地である。話には聞いていたが実際に行って見てみるとそのダイナミックさに圧倒される(ほかに鋼材は東海地区本部と東北地区本部が各2億円、関西地区本部が5千万円保管されている)。

関東地区本部の営業エリアは関東甲信越一帯と広大である。主たるユーザーは約300社で特に群馬県や栃木県の自動車関連の比較的規模の大きな金型メーカーが多い。同社の齋藤茂取締役関東営業所長は、「いつの間にか過当競争で鋼材を1次加工して納品するのが当たり前になっています。ここは1次加工をしていませんので金型メーカーから注文があると鋼材を切断し、協力企業に1次加工を依頼し加工を終えてから納品することになります」と語る。

それなら、手軽な3Dプリンターによる方式があるのではないかと言われるかも知れないが、試作製品ならともかく本格的な製品の金型になると耐久性においてプレス加工とは比較にならない。多くの多品種の特殊鋼の在庫とこの1次加工品の供給が同社の最大のセールスポイントである。

今後の経営戦略について竹内社長は、「現在の主体である自動車関連の冷間工具鋼の販売量が今後それ程伸びていくとは思われないので、これからはいかに新しい素材・加工製品をユーザーに提供していくかがカギになる」と語る

日本企業の海外展開とエレクトロニクス産業の退潮により近年同社は鋼材だけではなく、セラミックス素材の金属加工にも力を入れている。イニシャルコストはダイス鋼の5-6倍であるが金属より硬度が高く、耐摩耗性に優れ金型の寿命は10倍以上である。同社はこの分野にもチャレンジしていて、金型、各種治具用途を中心として超高強度鋼の工具鋼を販売している。

また、最近鍛造、リングロール製法の素形材製品として各種機械部品を、冷間ダイス鋼の型打鍛造製品として廃棄物処理の破砕刃をユーザーや鍛造メーカーと共同開発して来ていてこれも大変好評である。

一方、商社の機能としては提案型営業機能を強化し、日本経済のものづくり機能の低下に対応させ、より工具鋼を金型、治具以外に高強度、耐摩耗部品として用途拡大を図る。更に今後とも研究開発を進めより製品の高付加価値化を図って行く戦略である。

 

*鋼(ハガネ)プロジェクト

—-芸が身を助ける 異色の歌手デビュー 

竹内社長は、鋼孝太郎という芸名で歌手としても活動している。2017年に旭日小綬章叙勲受賞記念に日頃カラオケが好きであったことから関係者から進められ「たそがれ慕情」と「ハガネの勇気」というCDを発売したのがきっかけである。半年間本格的にレッスンを重ねて発売したデビュー作である。

現在は、管楽器アイドルの女性4人組みのラブジャミと組んで「夜空の王子様」、「鋼の勇気」という2作目のCDを発売し、イベントでの出演やライブ活動を行っている。この「鋼の勇気」は特殊鋼の応援ソング、応援歌で「ボールペンのばねからロケットまで」という歌詞が曲のなかで出て来るように業界全体のPRソングでもある。特殊鋼は幅広い用途で使用されているにも関わらず常に裏方で一般にはなじみが薄い。

そこで、この曲で少しでも特殊鋼の世界を分かってもらえたらと普通は1曲で終わるCDをあえて2作目に挑んだ。これには一般に人に分かってもらうということで特殊鋼の業界に従事に従事する人の励みにもなる。

そして何よりさすがだと思うのは、この2枚のCDは大同特殊鋼などの多くの取引先、ユーザーに届けられる。そうすると嫌でも竹内ハガネ商行の存在が自然と浸透する。宴会ともなると当然、「鋼孝太郎さん1曲歌って」ということになる。

芸が身を助けるというが大好きな演歌が業界の振興と自社の営業活動に大きなプラスになっている。仕事はねじりはちまきで真面目に取り組むだけではなく肩の力を抜いてユーモアを持って教えてくれている。

同社の社名である竹内ハガネ商行は不思議な名前だ。普通は「商行」でなく、「商工」となるはずだ。多くの企業が銀行振込みなどで間違えたそうである。しかしこれは商いに行くという創業者が考えた商売の原点なのである。鋼プロジェクトも演歌で商いに行くのである。

 

増田辰弘(ますだ・たつひろ)

『先見経済』特別編集委員

1947年島根県出身。法政大学法学部卒業後、神奈川県庁で中小企業のアジア進出の支援業務を行う。産能大学経営学部教授、法政大学大学院客員教授、法政大学経営革新フォーラム事務局長、東海学園大学大学院非常勤講師等を経てアジアビジネス探索者として活躍。第1次アジア投資ブーム以降、現在までの30年間で取材企業数は1,600社超。都内で経営者向け「アジアビジネス探索セミナー」を開催。著書多数。