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「必至のポートフォリオ大改造」~日本株爆騰開始前夜の可能性(武者陵司)

武者陵司のストラテジーブレティン vol.57
「必至のポートフォリオ大改造」
~日本株爆騰開始前夜の可能性~

武者陵司氏((株)武者リサーチ代表、ドイツ証券(株)アドバイザー、ドイツ銀行東京支店アドバイザー)

今の日本株を語るとき、チャーチルの名言ほどぴったりはまるものはないだろう。

凧は追い風ではなく、逆風に向かう時最も高く上がる。
Kites rise highest against the wind ? not with it.

悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見いだす。楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見いだす。
A pessimist sees the difficulty in every opportunity; an optimist sees the opportunity in every difficulty.

私は楽観主義者だ。それ以外のことは、あまり役に立たない。
I am an optimist. It does not seem too much use being anything else.

(1) 思い知らされる債券投資リスク

惨憺たる9月が終わった。8月末のジャクソンホールでのパウエルFRB議長スピーチ以降、市場で広がっていた早期利下げ期待が急速に後退した。特に9月21日のFOMCによるターミナルレートの大幅な引き上げが決定打となった。

FFレート年末予想値(参加メンバーの予想中央値)が2022年末4.4%、2023年末4.6%と、6月時点での予想(2022年末3.8%、2023年末3.8%)から、それぞれ1%もの大幅引き上げとなり、底値買いを狙って買いを入れた短期筋のはしごを外した。米国長期金利の急騰に突き動かされ、四半期末と重なって世界株式は底割れの惨事となった。楽観論総崩れの様相である。

■金利急騰の直撃を受けた英国年金のレバレッジ型債券投資

象徴的なのは英国金融市場の混乱であった。折悪しく、FOMCのドットチャート発表、米国長期金利の急上昇とほぼ同時(23日)に、トラス新首相とクワーテング新財務相による450億ポンドの減税を含むミニ予算が発表された。これが財政赤字不安を掻き立てたことで、イギリスでは長期金利が急上昇し、スターリングポンドの急落、株価急落をともなってトリプル安が起きた。


図表1: 日米英独の10年国債利回り推移


図表2: FFレートとFOMCメンバーの年末予想値

この英国長期金利の急騰を引き起こしたのは年金筋の国債売りである。英国の確定給付型年金では、リスクの高い株式を大きく減らし債券の比率を高める一方、レバレッジを使ってリターンを高める戦略(Liability-Driven Investment Strategy)がとられてきた。そこに債券価格の急落が襲い、担保価値の急減、追証の発生と売りが売りを呼ぶ連鎖を引き起こした。

イングランド銀行は緊急避難策を発動し、国債の緊急買い入れ(事実上のQEの復活)を実施しパニックは収まったが、金利リスクの大きさを思い知らされる事態となった。

■日本でも懸念される機関投資家の外債投資損失

米国長期金利の急騰による損失は、日本の機関投資家においても発生していると推察される。米国長期国債価格は過去1年間で2割下落した。この損失は、過去1年間の2割以上の円安による為替益によってまるまるカバーされた。

しかし為替ヘッジをしていた投資家は、米国国債の暴落の直撃を受けることになった。図表3は元日経新聞編集委員、前田昌孝氏による週刊「マーケットエッセンシャル35号」に掲載されている野村NEXT FUNDS外国債券・FTSE世界国債インデックスETF(為替ヘッジあり、なし)のトータルリターン価格の推移である。為替ヘッジありのETF価格は、昨年高値以降20%を超える下落となっている一方、為替ヘッジなしのETFは前年比ではプラスが維持されており極端な対比となっている。

ここに来ての円急落、為替ヘッジコストの急上昇により、日本の銀行、生損保など機関投資家はヘッジ比率を引き下げていると推察されるものの、図表4に見るように、4割程度はヘッジされているのではないか。とすれば各社において相当の運用損失が発生している可能性がある。

図表5は第一生命一般勘定における2022年度の資産運用方針であるが、公社債48%、ヘッジ付き外債17%、貸付金7%、株式等15%、オープン外債5%、不動産その他8%となっており、外国債券の2/3が為替ヘッジがされている。ヘッジ外債は安全資産であるという思い込みが大きな見込み違いを引き起こした可能性がある。

日本最大の外債プレーヤーはゆうちょ銀行で、郵便貯金で集めた資金を内外市場で運用している。235兆円(22年6月末)の運用資産のうち141兆円が有価証券運用に振り向けられ、そのうち76兆円が外国証券(大半は債券)である。この外債投資が為替ヘッジ付きでなされているとすればそのダメージは無視できないだろう。

■真打は予想される日本国債大幅下落・・・・・YCC解除は時間の問題

このように欧米の金利急騰が波乱を引き起こしているが、金利リスクとなればまず懸念されるのが、今はYCC(イールドカーブコントロール)で抑えられている日本の長期金利の帰趨である。日銀による政策変更はまだ見通せないが、どこかの時点でサプライズが起きる可能性は十分にある。市場はそれを予期して日本国債を売り始めるかもしれない。日本の長期金利急騰、債券暴落は2~3年の中期予想ではメインシナリオになっていくかもしれない。


図表3: 為替ヘッジ付き対ヘッジなしETF価格推移から見る外国国債投資の明暗


図表4: 国内生保会社のドルヘッジ比率推移


図表5: 第一生命2022年資産運用方針

(2) 最後に残った有望リスク資産、日本株式

■焦眉の本邦機関投資家ポートフォリオ大改造、日本株にウェイトを

このように世界的金利上昇と債券のボラティリティの高まりを所与のものとすれば、外国債券にウェイトを置いてきた日本の銀行、生保、年金などの機関投資家のポートフォリオは大改築が必要になってくるのではないだろうか。

日本の銀行・機関投資家の資金運用はかつては国債投資主体であったが、2013-14年の日銀異次元の緩和、GPIFの運用改革以降、外国証券をリターン追及のためのリスク資産の中枢に据えてきた。図表6はGPIFのポートフォリオ推移だが、アベノミクスの一環として始められたGPIF改革により、外国債券、外国株式、日本債券、日本株式各々1/4の構成にシフトしたことがわかる。

改革直前の2012年度から2021年度までの10年間では総資産年平均6.6%の高リターンが実現し、収益累計は105兆円と、運用資産(197兆円)の過半を占めるという良好な成果がもたらされた。資産クラスごとの収益率をみると、日本債券1.0%、外国債券5.6%、日本株式10.8%、外国株式15.4%となっており、2013-14年の改革が功を奏したことがわかる。

日銀の異次元の金融緩和QQEは、これらGPIF、ゆうちょ銀行をはじめとする日本の金融機関・機関投資家が保有していた国債を肩代わりし、それらのポートフォリオリバランスを可能にしたという点で、大きな役割を果たした。


図表6: GPIFのポートフォリオの大転換


図表7: 日本国債の主体別保有比率

しかしこれからも、外国債券、外国株式、日本債券、日本株式各々1/4の構成のままでよいとは限らない。そこには深い戦略的洞察が必要である。そもそも大幅な円安と為替変動、外国株式急落により外貨主体のリスクテイクの問題がにわかに強まっている。

■外貨資産投資、日本債券投資はにわかにリスクが高まった

以下3点はほぼ確かだろう。
i. 外貨資産は、安定収益を狙うには為替変動があまりにも大きい、また為替ヘッジコストが恒常的に高くなり手が出せなくなっている
ii. 日本国内債券の金利リスクはYCCの出口が意識されるにつれ、いやがおうにも高くなる
iii. バリュエーションと収益モメンタムから見た国内株式の優位性が突出する


図表8: ドルヘッジコスト急上昇、米債投資妙味喪失

銀行・機関投資家の間で資金運用対象の中心に日本株式を据えざるを得ない時代が来つつあるのではないだろうか。銀行の場合資本規制、生保の場合ソルベンシーマージン規制があり、リスクウェイトの高い株式投資はしにくい状況もあるが、それでも戦略的対応の余地はあるだろう。なお自国国債をリスクウェィトゼロとするバーゼル資本規制は、現実にそぐわず、修正されるべきではないだろうか。

■企業収益、日本のみアップトレンド

2023年にかけて日本株式は世界最高のパフォーマンスが期待される。第一に日本経済と企業業績が世界で最も堅調と予想される。2023年の経済見通しは日本が先進国中で最も高くなると予想されている。IMFは7月時点で(米国1.0、ユーロ圏1.2%、日本1.7%)、OECDは9月時点で(米国0.5、ユーロ圏0.3%、日本1.4%)と予想している。

日本経済は、
1.世界的金融引き締めの中で緩和基調が維持されていること、
2.コロナパンデミックに対する過剰反応から最も経済の落ち込みが大きかったが、その反動(リベンジ消費など)が期待できること、
3.円安のプラス効果が発現すること、
等が予想されるからである。

ことに円安の波及効果は甚大となるだろう。超円安により日本はかつての高物価国から新興国並みの低物価国となったが、低物価国日本へと世界の需要が大きく集まり始めている。まず輸出競争力が高まり輸出数量が増加し始める。また輸入品を国内製品に代替することが起きる。かつての超円高の時代に日本企業は海外に工場を移し、国内需要は安い中国品に蚕食されたが、今その逆のことが起きつつある。割安になった日本で商品を調達し海外へと転売する越境EC(イーコマース)が活況を呈している。この日本への需要集中はまだ始まったばかりであり、これが奔流のように力を増していくことは疑いない。

■急増し始めた国内設備投資

国内設備投資急増の兆しが表れている。9月の日銀短観の2022年度の設備投資計画は、全産業16.4%、製造業21.2%と過去最高の伸びとなった。シリコンウエハー主体の非鉄金属、化学、電機、機械などの円安の恩恵を受けるハイテク産業の伸びが大きい。

総額1兆円に達するTSMCの熊本工場建設も動き始めた。またスバル大泉工場でのEV生産棟60年振りの新設、ルネサスエレクトロニクス甲府パワー半導体工場再稼働、SUMCO伊万里新工場建設、住友金属工業ニッケル電極材の新居浜新工場建設、アイリスオーヤマ中国家電生産の一部国内移管、京セラ鹿児島川内工場半導体パッケージ用新棟建設、ダイキン工業中国依存のサプライチェーン国内移管、キャノン21年振りで宇都宮に露光装置工場新設、安川電機基幹部品生産の国内回帰と福岡行橋工場建設、富士フィルムバイオ医薬品受託生産富山工場建設、など100億円規模の投資プランが続々と動き始めている。

今後円安定着がはっきりするにつれて国内への工場回帰が強まり、投資の伸びはさらに高まるに違いない。

雇用面でも経済活動の再開に伴い非製造業の人手不足感が強まっている。9月短観では人員が「過剰」と答えた企業から「不足」の割合を差し引いた雇用人員判断指数(DI)は全産業でマイナス28と4ポイント低下、先行きもマイナス31とさらなる人手不足が見込まれている。すでに過去最高水準にある企業業績は円安効果もありさらなる上方修正は必至である。


図表9: Jカーブ効果


図表10: 法人企業経常利益率推移

■歴史的好バリュエーション、極端な日本株の割安さ

株や債券などの金融資産の価格は利回りから類推することができる。2大金融商品、債券と株式の価格は歴史的に見て大きく揺れ動いてきた。日本10年国債利回りは0.2%なので、投下資本を回収するのに500年かかると計算される。他方株式は益回り(1株利益/株価)が8%なので、投下資本を回収するのに12.5年で済む計算となる。

ここから株式は債券に対して1対40と言う極端な割安状態にあることがわかる。この債券と株式の極端な価格差は、世界を見渡しても、日本の歴史を振り返っても、かつてなかったことである。ちなみに米国では国債利回は3.8%なので債券の元本回収に26年を要す。それに対して株式は益回り7%なので回収には14年かかる。株式と債券との価格差は1対1.8と、日本に比べればだいぶ小さい。


図表11: 株 vs債券-正から負のバブルへ

図表12により日米の国債利回りと株式益回りの推移を振り返ると、株式割高(債券割安)時代と、株式割安時代が交互に到来していることがわかる。そして現在の日本の株式の相対価格は、陰の極と見えるほど割安であることがわかる。同様の極端な株式の割安さは、1950年代初頭の米国株式爆騰前夜にしかなかったことである。5年10年後になって、振り返ると今がかつてない株式投資チャンスの時代であったことがわかるだろう。


図表12: 日米株式の益回り、配当利回り、国債利回りの歴史的推移

■好需給、自社株買い、個人、外国人に加え本邦機関投資家が参戦する

債券を売った(または預金を下ろした)お金で株を買うことで、とてつもなく有利な運用が可能になっている。日本の家計金融資産の74%(1089兆円)は利息が限りなくゼロに近い現預金・債券で占められ、益回りが8%という有利な株式・投資信託は全体の20%(295兆円)に過ぎない(比率は保険・年金・定型保証除く)。著しく割高な債券と現預金に巨額の資本が退蔵されているが、この巨額な資金がいよいよ株式投資に向かって流れ始めようとしている。

資産所得倍増政策へと舵を切った岸田政権のNISA改革もあり、「株式投資で資産形成を」という動きは国民的な広がりを見せている。NISA口座の急増、NISA口座からの買い付け額は指数関数的増加ペースにある。積み立てNISA口座からの買い付け額は倍増ペースの伸びを続けており、2023年には2兆円台に乗せるであろう。一般NISAからの買い付け(2021年年間2.7兆円、2022年1~3月1.4兆円)を合算すると、個人の株式積立投資が年間10兆円を超え、一大投資主体として登場するのはすぐ先である。


図表13: 日米家計金融資産構成比較

また企業の自社株買いが急増している。2021年度8兆円と過去最高になったが、2022年度は9~10兆円ベースに上ると見られている。

さらにアベノミクス時以降23兆円を買った外国人投資家は2020年にそのすべてを売却しつくし、日本株式はアンダーウェイトの状態にある。彼らは米国、中国、欧州、韓国など各国株式が固有の問題を抱えている中で、消去法的に日本の輝きを無視できなくなっていくだろう。

こうした状況の下で、長らく日本株投資に後ろ向きであった本邦機関投資家が参戦する。日経平均2023年35,000円、2024年4万円は射程内にある、と言っていいであろう。


図表14: 海外投資家日本株式累積投資額(2013年以降)


図表15: 日本株式投資主体別累積投資額推移

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■武者 陵司
1949年9月長野県生まれ。1973年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券(株)入社、企業調査アナリスト、繊維、建築、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て、1997年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト。2005年副会長就任。2009年7月(株)武者リサーチを設立。
 
■(株)武者リサーチ http://bit.ly/2x5owt