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「日本の金融市場に対する海外の評価について」(真田幸光)

【真田幸光の経済、東アジア情報】
「日本の金融市場に対する海外の評価について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)

英米、スイス、ドイツなどを基軸とする現行の国際金融市場の中で、日本の金融市場は、
「比較的安心、安全の通貨・円に支えられた金融市場」
と評価され、現行の国際金融体制を支える一翼であると高く評価されている。
 
そうした高い評価を受けている日本の金融市場の新しいリーダーとなる、即ち、日本の中央銀行である日本銀行の総裁に就任した植田新総裁は、巧みな英語力を駆使する、
「ユーモアにも長けた」
金融マンとして注目されている。

ところで、世界的なインフレが進展、そのインフレ退治策として示された政策金利引き上げトレンドの中で、昨年末のスイスを最後に、世界の主要先進国が、
「異例のマイナス金利政策」
を止めたが、日本の金融当局は未だに、
「マイナス金利の継続、即ち、金融緩和政策の継続」
を続けており、今後も政策金利の引き上げはしないとの姿勢を示しているのが植田日銀総裁である。

国際金融市場には、それでも、日本の国際金融市場との平仄を合わせる動きが今後は出て、
「植田総裁は、早晩、日本の公定歩合を引き上げ、ゼロ金利までに戻してくるであろう。
即ち、年内には少なくとも0.1%の政策金利の引き上げは行ってくるであろう。」
との見方がまだあり、未だに国際金融市場、日本の金融市場の過半はまだ、
「日本の政策金利の年内引き上げ」
を予想している。
 
しかし、
「植田総裁は本当にマイナス金利を継続する可能性がある。
口先だけのコメントではない」
との見方が内外金融市場に「じわじわと」広がり、その結果、日米の金利差はやはり縮まらないと見る向きは、
「円を売って米ドルを買い戻す」
と言う動きをじわじわと拡大、円安がじわじわと進行しているのが昨今の動きである。
 
植田総裁も「行き過ぎた円安」には警戒感を持っているようで、
「政策金利である公定歩合を上げないとまでは言っていない」
との含みを持たせた姿勢を示し、円・米ドルの為替に配慮した「目くらまし作戦?!」を取っているが、相対的な円安は輸出産業には一般的に有利、そして、その輸出産業を軸として構成されている日経平均銘柄には、上述した金融緩和政策による大量の資金の受け皿として、資金が流れ込む傾向も見られ、
「日経平均株価」
は久しぶりの高値を記録している。

そして、こうした状況に対して、海外の金融市場プレーヤーたちからは、
「日本株が1990年代初めのバブル崩壊以降33年ぶりとなる最高値を更新して大幅に上昇した。
ロシア・ウクライナ戦争が長期化する中、米中の対立が高まり、台湾を巡る武力紛争の可能性まで議論されるなど地政学的不安が高まると、安全なアジアの先進国であると評価されている日本の価値が高まっているとも言えよう。
また、米中対立で中国本土から逃避した資金の一部が、GDP基準で、中国本土に続いてアジア第2の経済大国となっている日本に流入しているとの見方も出来る。
これらの資金が日本を代表する株式市場である日経平均の銘柄に流れ込んでいる。
そして、日経平均株価が3万2,000円を超えたのは1990年7月以来であり、本年年初来の日経平均の上昇率は25%を超えた。
韓国総合株価指数(KOSPI、18%)、中国本土(上海総合指数、0%)、米国S&P500指数(12%)を大きく上回る上昇率ともなった」
との声が聞こえている。
 
また、そうした中、シンガポールの金融筋は、日本に対して、
「再び昇る太陽」
との見方を示し、更に日本株上昇の原動力は、
「皮肉にも冷戦終結後最悪の状況に突き進む国際情勢である。
半導体などを巡る米中貿易紛争、台湾に対する中国本土の武力行使の可能性、ロシア・ウクライナ戦争を巡る欧州と反欧州の対立など国際社会で同時多発的な悪材料が存在することが日本経済にはむしろ有利に作用している」
との見方を示している。

更に、フィナンシャルタイムズ(FT)では、
「中国本土を巡る地政学的な不確実性により、市場規模が大きく、競争力のある企業が多い日本にはむしろ有利に働いている。
日本は今後5~10年間、投資家にとって最優先の選択肢になるだろう」
との見方まで出てきた。
フランスの名門投資銀行の一つであるクレディ・アグリコールも最近、日本の経済成長の勢いや資金流入のペースに基づいて、
「日経平均が3万5,000円まで上昇する可能性がある」
との予想値まで示し始めている。

こうした中、海外の悪材料が日本の好材料として特に作用した代表的な分野は、
「半導体分野」
であるとの見方も出ている。
米中は情報覇権争いの中、IT産業の中枢である半導体分野で互いに制裁を行い、衝突しており、ファウンドリー(受託生産)業界1位の台湾積体電路製造(TSMC)がある台湾は、中国本土の脅威に持続的に苦しめられ、魅力を失っているとの見方も水面下では出始めている。
半導体を巡る不安が高まると、先端技術を備えながらも地政学的に安定した日本の長所が目立ち、世界的な半導体企業による工場新設発表が相次ぎ、日本経済に対する期待感を高めたとの声も出ている。
国際金融市場では一目置かれている、バークシャー?ハサウェイのウォーレン?バフェット会長が本年1~3月にTSMCの株式6億1,770万米ドル相当を売却し、日本株を大量に買い付け、
「日本は台湾より良い投資先である」
と言った考えを、行動をもって示したとの評価も出てきた。
 
日本政府も米中覇権争いを自国に有利な流れに持っていく為、いち早く動いているとの見方もある。
 
ロシア・ウクライナ戦争の長期化で不安が高まる中、広島でG7サミットを成功裏に開催したことから、
「安全な投資先」
というイメージを国際金融社会に植え付けたことも日本への資金流入を牽引したと見られるとのコメントまで出始めている。
果たして、
「日本は西側自由陣営の求心点であると同時に、安定、確実なサプライチェーン・ハブという役割」
を今後も果たせるのであろうか。
 
一方、筆者がロシアや中国本土のトップであれば、日本の評価が高まることは、決して国際戦略上望ましいことではないと考える、従って、比較的安心であるとの評価を崩すべく、
「軍事的圧力」
も含めた日本に対する圧力をじわじわと増しながら、日本の反応を眺め、可能な限り、
「日米、そして日米韓の絆にひびを入れていく」
というような硬軟織り交ぜた対日戦略を取ると思う。

いずれにしても、日本の株価が引き続き高値で推移することを期待しつつ、今後の動向をフォローしたいと考えている。

 

真田幸光————————————————————
清話会1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している。
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