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「打てば響く『ハイ』の一言でがらりと変わる」(澤田良雄)

鬚講師の研修日誌(54)
「打てば響く『ハイ』の一言でがらりと変わる」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆K社長の元気良い「ハイ!!」の返事で……
 
地元経済団体の10周年記念式典に臨席した。式次第が進み、ここまでの伸展に協力いただいた会員企業、団体への感謝状の授与での出来事である。

司会者から受賞者のお名前が次々と紹介される。紹介されての反応は様々である。無言ですっと立つ人、小さな声で返事をして立つ人、この状態がしばらく続く。

臨席のH社のK社長が小生に声かけする。
「もっと大きな声で返事すれば良いのにね」
「そうお願いしたいですね」と応答する。

実は、H社も受賞企業である。やがて司会者から「H者様」と紹介された。「ハイ!!」と大きな声で立ち上がったのはK社長である。

会場に「誰……」と興味のざわつきが起こる。すかさず、ここまでの各社に送られていた拍手より一段と大きな拍手が会場に巻き起こる。その後の各社様の返事は見事にはっきりと声を出し、背筋を伸ばしての立ち上がりであった。

会場が一変に活気を帯びる。そっとK社長に声かけ握手する。返す笑顔が素敵だ。

式終了後,K社長に賞讃の言葉掛けをする人が続く。
「いや、隣にいる先生(小生)がしっかりやりなさいというもんですから」と躱す。
小生が言ったわけではないのが事実だが……。

◆打てば響く「ハイ」の一言は感謝心での対応に通じる
 
H社は車体鈑金を主に整備、販売を総合的に営む繁栄企業である。縁あって何度か社員研修を担当してきた。

H社Jは「お客様に感謝」を理念とし、顧客第一主義を45年貫き通し県内でも業界屈指の企業となった。

「お客様に感謝」、その実践はどんなことか。
一例を紹介すると、「電話には全社員で対応する」がある。

事務所に外部から電話が入る、どんな状態にあろうと即座に電話に出る。3度ベルが鳴っても出られない状況のときには事務所の電話から現場の柱の電話に繋がり、現場技術員が直対応する。

「電話をいただくことは当社に関わっていただけること、ありがたいことです。ですから、社員事情で応答できないことはあってはならない」との考えである。

また、雪の朝には社員が早朝出勤し、チェーンタイヤの事前対応のできなかったお客様からの要望に応える体勢づくりも一例である。

夫婦で創業し、ここまで牽引してきたのがK社長である。現在、子息に後継し、「社長の父親」の肩書と銘打って似顔絵入りの名刺を作成し、人を楽しませる一面もある。それだけ何事にも明るく、人の気持ちを汲み取り、場の状況を読み取って言動のできる人だ。
 
返事一つで・・・と考える向きもあろう。しかし、返事の一言の発信には、言葉そのものよりも内なる考え、意識、品格が語調となり、声の響き、表情、姿勢、目線の向け方となる。それは、言葉は言霊であり、その持ちようが言動として相手に伝わる。だからこそ返事の仕方如何が問われるのである。確認してみよう。
 
小生が長年関わっている地元経営者の倫理経営を学び合うモーニングセミナーがある。その言動規範に「返事は好意のバロメーター、打てば響く『ハイ』の一言」が掲げられている。

好意とは、人を受け入れる、相手の心を汲み取る、共に豊かな時間を創ろうとの共創の心と言える。そして、打てば響くとは、相手からのお声がけに素直に応える意思の表現ということになる。

だからこそ、「返事なし」は相手を拒否することであり、無視することであり、あしらうことでもある。例え「そのつもりはない」といってもで相手にはそう映ることはやむを得ない。

だから「返事がない」「返事がいいかげん」との言葉を聴くが、一言無精するなと言うことよりも、不快・不信感、時には怒りに近い心境を表しているのではなかろうか。

逆に返事の良さは「歓迎してくれる」「大事にしてくれる」「丁寧だ」「すぐ対応してくれてありがたい」との安心感・嬉しさを増幅されているのが現実である。対顧客様との関わりでは企業の強味を産み出す評判づくりにつながっていくことはいうまでもあるまい。

◆当たり前の事だからこそ最高実践していますか
 
「気持ちよい返事をしよう」、当たり前のことだ。当たり前のことだから、なんとなく自己都合で成していることはなかろうか。

モーニング研修のスタート前、5時半からは参加経営者での朝礼を実施する。これがよい。声をしっかり出す、きちんと姿勢を正す、相手に合わせるこの言動の確認が目的だ。

例えば挨拶実習では、「おはようございます」「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と、声を合わせ、お辞儀の角度、スピードを隣の人に合わせ、姿勢の角度もチェックする。

15~20人ほどの横列がこれだけのことでもきちんと揃えるのは並大抵なことではない。なぜならトップは日常自己中心的な振舞いが多く、むしろ自分に合わさせる向きもあるからだ。

続けて「返事の演習」に進む。演習リーダーの指揮で「ハイ!!」「ハイ!!」全員で唱和し、次には「一人ひとり行います」と宣言し、各自が「ハイ!!」「はい!!」と応える。

順番が近付くと緊張感が走る。姿勢を正し、指揮者の手先に目を合わせ、大きな声での「はい」である。ピシッと心が整う。すかさず「笑顔で」と指示が飛ぶ。10分間の朝礼だが1日のスタートに向けた元気さが体に宿る。まさに活力漲る朝礼である。

実はこのような、あるいは類した活力朝礼を実施している企業の話題は多い。朝礼、昼礼を実施している企業は多いが、組織の連絡、指示、業務の進行状況の共有等などが大方である。

加えて、基本事項をきちんと確認する機会として活用することも良い。特に、挨拶、返事の当たり前のことを、当たり前に実践する醸成は、必ず顧客思考に基づく業務遂行に通ずるからである。
 
H社の月初の朝礼は、社員が社屋外に出て道路際での実施である。交通量も多く、行き交う人も多い。この環境できちんと姿勢を正し、挨拶、返事の基本動作の演習、そしてトップ・幹部の一言が伝えられる。近隣の名物(?)であり、内なる魅力を外へ向けて思い切って発信する度胸付けにもなると小生は賛辞を送っているのだ。

当たり前に実施する。この行動規範を小生は 研修の導入で必ず活躍の基=打てば響く、それは心と言動→自分と相手と記し、今できることの最高実践と大きく書く。

今できることの最高実践とは、わかっている、できる、やろうと思ってもやらなければ何の価値もない。むしろ自分を粗末にし、反感を買うだけである。この当たり前のことの最高実践を、との指導・支援は、出講企業ご担当部門との共有事項でもある。

◆社員研修での確認は挨拶・返事の当たり前のビジネスマナー
 
先日、工具類トップメーカーN社の新人フォローアップ研修を担当した。入社後、半年経ち、配属先では、指示された仕事を完璧にこなす信用から、任され、責任持って業務担当者へと成長し、いわば信用から信頼される一人前へと近付く現況である。

だからこそ、「当たり前のことを当たり前にやる」、この実践継続を強く訴求されたのは担当部門のI部長である。長年パートナーシップを生かして実効ある研修を創造してきた共創関係であるのでその意図が共有できる。

今年は、高い志を持った新人、企業側の期待も国内外で通用する高い志を持った活躍を望む育成指針である。この実現への近づきは、「何のために」「なぜ」の目的を掴み、結果を良く魅せる活躍はどうするか! 考働せよ。その礎は当たり前のことを自然に実践する地力を疎かにするべきでないとの指導である。従って、2日間、開始、終了時の挨拶、言葉掛けの返事、返答の確認、プレゼンテーション演習でもきめ細かく確認を施した。

できる能力は当然秘めている。肝腎な物差しは半年後、いかに熟したかにあることは言うまでもない。
 
研修の最終項の今後の活躍に向けてのビジョン設定の話合いでは、「凡事徹底、たとえ準社員さん、業者さんにも自ら堂々と一言に心を込めた挨拶する」の一項も決定された。

また、大手製油所の構内委託業務を担当するC社の社員クラス(中途入社他)の研修では、A社長から「絶対、怪我しない。この徹底を」と教示された。

C社のスローガンは「最高の挨拶で、安全、最高の品質」である。特に挨拶への取組みは見事。それは元請けの大手製油所が外部訪問者から「この製油所の社員の挨拶は素晴らしい、歩き方も遠くから見てもキレイ」との評判を得ていることにある。

事実は、構内で活躍するC社社員の当たり前の実践そのものである。中途入社社員に、この事実を確認するのも小生が長年関わってきたC社だからこその成すべき指導である。

既に職歴を重ねて来た特性を持った社員だからこそ、ビジネスマナーも具体的に確認・指導し、自己流でのいい加減さの脱皮を促進する。

例えば返事の実践。呼ばれたらすぐ、呼ばれた人を見て「はい!」と声がけを、と小生とロールプレイイングする。目線を合わせる、明るく気持ちよいトーンでと繰りかえす。「なぜそうするか」を確認する。それは、呼ぶ方は「あなただからこそ、仕事の指示をしたい、現在の仕事の進捗状況を確認したい、それに何かお役に立てる事があれば……、あなたの考えを聞きたい……」の目的があるからだ。

「あなたを認めているからなのです」と説く。それを黙っている、ヌーと近づき上から目線で眺める。これでは、相手は不快感が湧くだけで育てていく楽しみを萎えさせてしまう。と確認する。

受講者自身、同様な体験は誰でもあるのでその納得ができる。ちなみに、「ハイ」の言葉以外でも「かしこまりました」「わかりました」と気持ちよく応える。大衆割烹でお客様の注文に「ハイ喜んで……」と応えるお店があるが実に気持ちが良い。

また、話しを聴くときに「うなずく」ことも同意である。”受け止めてくれている”この反応は安心と嬉しさを生む。まさに無言の返事だが「好意のバロメーター」だ。返事の真髄がここにもある。
 
受講者からの受講後の声に、
「こんなにビジネスマナーがあったとは忘れてました。返事一つでもやれば当たり前にできることです。きちんと実践していきます」との所感がでた。

従って、最終項での「期待に応えて更なる活躍をする楽しみ方」のワークショップの発表の一項には「企業理念・挨拶意識を持って、当社のいなくては困る社員になる」が掲げられた。

今後、各自が具体的実践目標を設定し、上司のアドバイスを得て、前職からの脱皮をなし、その実態づくりの仕組みを支援した。上司が当たり前のことを当たり前に実践している率先垂範者でなければとの懸念を抱きながらも、この際、上司の自己診断の機会を目論んでのことでもある。「上(かみ)行えば、下(しも)これ見習う」である。

◆ラグビーの話題に学ぶ
 
研修の総括でA社長は、ラグビー精神「一人は皆のために、皆は一人のために」との言葉を引用し、職場の一員としての活躍を訴求した。

現在、ラグビーワールドカップでの日本チームの活躍は素晴らしい。「勝利は奇跡ではない。必然である」とのインタビューに答えた選手の言葉が印象に残った。それだけ、当たり前のことを「チームで勝つ」との合言葉で鍛え上げてきた強さであろう。

鍛え抜かれた選手関での激しい動きの試合運びでも、メンバー仲間から発信される声、シグナルに咄嗟に打てば響く反応の素早さで応えていく。その見事さが「チームで勝つ」との勝利への導きでもあるようだ。

闘いが終われば相手チームとは友好関係だ。そこには我が国の和の文化の励行も紹介される。その話題の一つにお辞議がある。この姿を外国チームが素晴らししいと評価し、実際に取り入れ実践で魅せている外国チームもある。この光景を目にして思わず拍手するのは小生だけではあるまい。そこには、良いことは「学び取る」との素直な受容の豊かさでもある。相手の働き掛けを素直に受け入れる返事の心得そのものと言えそうだ。
 
今朝もお辞儀、挨拶、返事を心を込め、形を整えての最高実践を学び仲間と確認した。学び仲間として日の浅いY社長は、
「この後は、ぴしっと気持ちも整い、背筋も伸びます。今まで慣れたことにより何気なくやっていたと反省してます。時には社員、関係者様に不快感を持たせていたかも知れません。決して悪気はないのですが……」
と心を弾ませ話してきた。

当初の背を丸めどちらかというと暗さを感じる表情とは打って変わっていた。「返事は好意のバロメーター、打てば響く『ハイの一言』その通りですね」とにこっと結んだ。

トップが変われば社員も変わる。それは活力漲る企業への変身の誘いであろうか。

 

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◇澤田良雄氏

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
http://www.hope-s.com/